【コラム】有効な離職防止策とは~社員が会社を辞める理由~

「社員は会社に入り、上司を去る」

という言葉がありますが、どれほどの核心を突いているでしょうか。

人はなぜ会社を辞めるのか、もちろんその理由はさまざまです。

辞める人が本当のことを言ってくれればいいですが、何となくにごされたり、真実を語らない場合もしばしばです(「あなた(社長or上司)のことが嫌いなんです」とは言えない)。

そうなると、辞める人の気持ちや離職理由を考える場合、まずは主観に頼ります。

しかし、そもそも会社を辞める気がない人、あるいは、絶対に辞められない人(オーナーや家族)では、客観的に起きている事実をとらえることは難しいのが事実です。

主観に頼った離職防止策は、空振りし(「それじゃないんだよ…」と従業員からは思われる)、やはり離職者は出てしまう。それが現実ではないでしょうか。

離職理由について、特に経営層や管理職層と、若者のジェネレーションギャップによるコミュニケーション不全が問題となるケースもあります。

そこで、現代の若者の全体的な傾向を知り、自社の状況に当てはめて考えてみることで有効な離職防止策が見えて来るのではないかと思い、このコラムを執筆しました。

今回は、15歳から34歳までの働いている若者たちを対象にした厚生労働省の調査をもとに考えます。

【参考データ】
厚生労働省 平成25年度 雇用の構造に関する実態調査(若年者雇用実態調査)
回答:全国の15,986人、15歳から34歳、正社員と正社員以外
詳細:http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/4-21.html

※グラフは弊社作成

 

そもそも、仕事に満足しているのか?

現在の職業生活に満足しているかを、項目別に尋ねた結果が図1、2のとおりです。

【図1:正社員の職業生活満足度 単位:%】

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※「不明」は非常に少なく表示していないため、回答の合計が100%にならない。

 

【図2:正社員以外の職業生活満足度 単位:%】

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特徴を箇条書きにします。

・正社員では、ほとんどの項目で「満足」と「やや満足」が50%前後

・正社員の「やや不満」と「不満」の合計は「賃金」が33.8%、「労働条件」が22.3%を除いて20%以下

・正社員以外の「やや不満」と「不満」の合計も「賃金」が35%と高いが、「労働条件」は14.7%とやや低くなり、その他の傾向は正社員と同じ

・正社員の「どちらでもない」が多く占める項目は「教育訓練・能力開発のあり方」が41.3%、「人事評価・処遇のあり方」が35.6%

・正社員以外は「どちらでもない」という回答の割合が全体的に多いが、「教育訓練・能力開発のあり方」、「福利厚生」、「人事評価・処遇のあり方」が特に多い。

 

満足のポイントは「賃金」、「教育」、「人事評価」

続いて、「満足」「やや満足」と答えた人の割合から、「やや不満」「不満」と答えた人の割合を引いた数字(満足度D.I.)を図3に示します。

これは、数字が大きくなればなるほど満足度の高い人が多く、不満足の人が少ないことを示します。逆に、数字が低いほど不満を表明している人が多い項目です。

【図3:満足度D.I(満足+やや満足)-(不満+やや不満) 単位:%】

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「賃金」の項目があからさまに低く、正社員以外にいたっては唯一マイナスに振れています。

「仕事の内容・やりがい」の項目では高い数字になっていますので、「これで給料さえもう少し高ければいいのに…」と思う人が多いからでしょうか。

「教育」「人事評価」に関しては、「どちらでもない」と答えている人の割合が多いため、このような結果に至っていると考えられます。

「人事評価」についていえば、結果的に「賃金」と結びつく可能性があるため、評価が反映されなければ、当然のように満足度は上がらないと考えられます。

しかし、だからと言って賃金をむやみやたらに上げることができない現状を考えると、売上の状況やコスト構造をしっかりと説明したうえで、賃金以外の部分で満足度を上げることが重要なポイントとなるのではないでしょうか。

教育訓練や人事評価制度にかけるコストは、賃金に比べればハードルが低いものと考えられます。

さらに、
教育やトレーニングを実施する
→従業員のスキル・態度が向上する
→顧客満足につながる→売上が上昇する
→給料に反映できる(人事評価の見直し) or さらに教育に投資する
といった好サイクルを望む、という選択肢も可能と考えられます。
もちろん、「そんな簡単にうまく行かないよ」という声も聞こえてきそうですが…。

実際、正社員では「労働時間・労働条件」で不満が多く見られるということは、日々の仕事に追われたり、休日まで出勤している様子がうかがえます。残業代が支払われていなかったり、サービス残業があって、それにも不満を抱えているのが現実であれば、そこに教育や研修をやろうものなら、さらに不満を招いてしまいます。

起きている現象をシステム的にとらえることで、これらの要因が複雑にからみ合っていて、単独の項目だけを改善すればよいという話ではないことがわかります。

「組織をどのようにしたいか」というビジョンと「なぜそのようにしたいのか」という思いを明らかにして、施策として具体化していくことが求められます。

 

過去に会社を辞めた(退職)理由

この調査では、過去に転職を経験した人に「最初に勤めた会社を辞めた理由」を尋ねています。それを示したのが次の図4です。

【図4:初めて勤務した会社をやめた主な理由(複数回答3つまで) 単位:%】

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特に多い回答が「仕事が自分に合わない」「賃金条件」「労働時間」「人間関係」として挙がっています。

最初に見た通り、多くの人が「賃金」や「労働条件」に不満を抱えていることが、そのまま離職理由につながっていることがうかがえます。

さらに、「仕事が合わない」、「人間関係」といったソフトな面での理由が上位に挙がっていることは、従業員が内面の環境を重視して働いていることがわかります。

調査では、転職後に改善されたかまではわかりませんが、満足度で「人間関係」や「仕事内容・やりがい」の項目が高いということは、解決できたのかもしれません。しかしやはり、賃金だけは大きな改善には至らないのが現実でしょうか。

 

今の会社を辞めたい理由

「今の会社を定年までに転職したいか?」という質問もされています。

「したい」と答えた人は25.7%でした。

会社の規模で分けると次のような結果です。

1,000人以上:24.4%
300~999人:22.3%
100~299人:23.8%
 30 ~ 99人:27.1%
   5 ~ 29人:27.2%

大きければ転職希望者も少ないかと言えば、そういうわけではなく、100人から1,000人未満の中規模企業では比較的に少なく、小規模の企業では少し多めになっています。

また、業界によっても数字は変わります。

たとえば、電気・ガス・熱供給・水道業では10.9%、鉱業系12.9%、運輸業・郵便業17.2%、製造業の中でも素材関連では18.6%と、20%を切る業界があります。

一方で、医療・福祉業は35.0%、宿泊・飲食業は34.0%、小売業は32.7%、複合サービス事業は32.3%、情報通信(IT)業27.7%と平均を大きく上回る業界があるのも事実です。

医療・福祉と宿泊・飲食については、産業全体を見た場合に労働者数が圧倒的に多く、全国でも1位と2位を占めます。従事している人が多い分、転職希望者が多くなっているのが理由と考えられます。

そして、転職したい理由が何かを示しているのが次の図5です。

【図5:転職しようと思う理由(複数回答) 単位:%】

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やはり「賃金」「労働条件」を気にしていることは、若者全体に通じて言えることのようです。

「自分に合った仕事をしたい」、「自分を活かせる仕事をしたい」という理由が次に来ているのは、「最初に勤めた会社を辞めた理由」と一致するように、内面的な充実を望んでいることがわかります。

 

では、どうするのか?

全体をまとめると

・働いている若者の3人~から5人のうち1人は、転職したいと思っている

・満足度と転職理由では「賃金」をトップに、「労働時間」などが問題として挙がっている

・「人間関係」や「自分に合った仕事」など、内面的な問題も見逃せない

・「教育訓練」や「人事評価」は、間接的な影響があると考えられる

・従業員を取り巻くものが複雑にからみ合って現状を形成しているため、あるものだけを取り出して論じても仕方がない

などが言えると思います。

もちろん、会社によって個別具体的な事情や状況があって、簡単な話ではないのはよくわかります。

それぞれの会社の現実を見きわめたうえで、「では、どうするのか?」を考えていくのがトップや経営陣、管理職の仕事です。

まずは、今回ご紹介したような項目で社内の現状をデータ化してみることが、現状を認識する第一歩です。

そこから、自社に特有の問題と答えが、浮かび上がってくるのではないでしょうか。

 

離職防止の具体策と効果的な対策

参考までに、10,283の事業所を対象にした厚生労働省の調査データを示します。

まず、若手正社員の定着策を実施しているかいないかについて、70.5%が「実施している」と回答しています。

「定着のためにどのような施策を行っているか」、そして、「(その中で)最も効果のある対策はどれか」を示したものは、図6のとおりです。

【図6:若年正社員の定着のための対策(複数回答)と最も効果のある対策 単位:%】

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半数を超えるところで、「意思疎通(コミュニケーション)の向上」や「本人に合った配置」、「教育訓練」、「採用前の情報提供」が行われていることがわかります。

一方で退職理由や不満の多かった、「賃金」や「労働時間」に対する対策はやや減少することがわかります。

最も効果のある対策としては、上記の順番どおりで来ているものの、「採用前の情報提供」でやや数字が落ちます。これは、定着につながっているとなかなか感じられにくいのかもしれません。「仕事に見合った賃金」の効果が高いと10%程度が考えているのも印象的です。

一方で、「労働時間」についての対策はあまり効果を感じていないようです。

そもそも、どのように会社側(事業者側)は「社員が定着出来ている」と考えるのでしょうか?

他のデータでは、「直近1年間で若年者の離職があったかどうか」を尋ねる質問で、「あった」という回答が8割を超えています。

退職者がいるのはやむを得ないと考えつつも、会社に貢献してくれている社員を定着できていると考えるのは、普段のコミュニケーションによって社員の様子や状況を把握し、さりげないケアやフォローを行えているからかもしれません。

逆に言えば、コミュニケーションを取っていることで「効果のある」「ない」を判断できているとも考えられます。

そうなると、社員の定着の第一歩は、相互理解をつとめるために普段からコミュニケーションの機会をつくることが、自社にとって効果的な対策につながるのではないでしょうか。

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【キーワード】評価者訓練

良い評価スキルを身につける

評価制度の重要なポイントは、評価者に公正で正確に評価をしてもらうことである。

評価プロセスやシステムがいかに素晴らしくても、評価にムラがあったり、バランスを欠いていたりと、最後は人の問題に行き着いてしまえば身もふたもない結果となる。

評価者が良い評価スキルを身につけ、優れた評価者になることで組織に公正感や納得感がもたらされるだろう。

 

偏見と誤りに注意する

評価スキルといってもツールやフレームワークを利用するわけではなく、人間が持つ偏見(バイアス)を捨て、誤り(エラー)を防ぐことに重点を置く。

評価者訓練では、次に挙げる偏見や誤りについて認識する機会を持ったり、行動の評価を重視する場合には「行動」と、「人格」や「好き嫌い」とは別に考えて評価を判断する訓練を行うこととなる。

ハロー効果

あるメンバーを評価しようとするときに、そのメンバーの目立つ点に引きずられてその他の項目に対する評価も影響を受ける、きわめて人間的な偏見のひとつである。

「ハロー(halo)」とはよく仏像や宗教画に描かれる人物の背後に射す後光や光輪を意味する。後光に目が行ってしまい、本人の姿をよく見れずに何もかもが良く見える効果が生じる。

仮に、メンバーのひとりにエリート大学出身者がいる場合、実際の仕事ぶりや勤務態度、人格面などそれぞれに独立しているはずの項目が、「勉強ができるから」という理由で全体の評価が高い方へ偏ったり、あるいは、たまたまのミスが目についたために「○大のくせに」とその逆へと傾いてしまうケースが当てはまる。

評価する人数が多かったり、時間がなかったり、接触や観察の機会がなかったりするとハロー効果は起こりやすい。

自分の偏見について認識し、評価基準にしたがって客観的に評価を行うことが求められる。

寛大誤差(寛大化傾向)

直属の上司が部下メンバーを評価をする場合、全体として評価が甘くなってしまう経口を示すことを指す。

寛大誤差が生じると、我が子かわいさのあまり、あるいは、我が身かわいさのあまり、5段階評価でつい4を多くしたり、ひとつくらいは5を、など基準をないがしろにしたり、部門全体のバランスを考えずに評価を偏らせてしまうことがある。

また、全体としてかなり厳しめに評価をして全体として2を多くしたり、「最近の若い奴はなっとらん」などと1を増やしたりする厳格化傾向も逆のものとして挙げられる。

最終的に組織や部門全体でバランスがとられる仕組みになっていればよいが、制度設計が失敗しているとバラつきがあるままで進んでしまう。

あくまでも基準に従い、何を評価すべきか明確にしたうえで評価することが重要となる。

入手容易性バイアス

身近にある情報や最近の出来事から物事を判断してしまう偏見。

評価期間が長くなるほど過去のことは忘れられて、最近の出来事で評価されてしまう場合や、物理的に離れているメンバーの評価よりも接触する機会が多いメンバーの評価の方が高くなる傾向が当てはまる。

 

継続的な注意が必要

上記の偏見や誤りは、その存在を知ればその場で修正することができる。

しかし、時間の経過とともにやはり人間が本来的に持つ性質に戻ろうとしてしまうので、評価の実施前など定期的にアナウンスすることで、評価を正しく、正確にすることが可能である。

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【キーワード】評価の方法

評価をどのように行うか?

メンバーの業績をどのように評価するのが有効だろうか。

組織によっては、評価のタイミングを四半期に一度と頻繁に行うところもあれば、一年に一度だったり、評価があったのか無かったのかさえもよくわからない組織もある。

頻繁に評価を行う組織では、管理職や経営者の仕事の大半が評価のために費やされ、何のための評価制度かわからないといった不毛な例もある。

また、評価手法が設けられていたとしても、実際にそれがどの程度意味があるのか不明であったり、もはやコミュニケーションを取るためだけに評価面談を行って普段のコミュニケーションを怠ったり、評価の機会が形骸化しているケースも見られる。

評価制度全体の設計も重要ではあるが、ここでは一般的に用いられている具体的な方法を挙げる。

 

業績記述法

メンバーが自分の強みや業績、今後の意気込みや計画などを記述して上司が評価する方法。

最も簡単であり、トレーニングも不要だが、「作文能力」が優れている人ほどよい評価を受ける可能性があることには注意が必要である。

 

重要行動評価法

メンバーのこれまでの仕事ぶりで、特に印象付けられる行動について評価者が書き記す方法。

たとえば、業務効率化につながるアイデアを取り入れたところ、これまでのやり方が改善されて、作業時間を減らすことに成功した、などが当てはまる。

メンバーの行動が、効果的であったかそうでなかったかを考えるのであって、メンバーの性格や特徴を書くのではない。具体的な行動に焦点を当てるやり方である。

重要と考えられる行動をリスト化することで、上司がメンバーに何を求めているかが明文化され、メンバーはどのように行動を改善したらよいか、望ましい行動が何かを理解できる。

 

評点法

いわゆる、通信簿(成績表)の仕事版である。

出欠、遅刻、勤務態度、主体性や行動力などの特性、会社への忠誠度、チームワークなど、評価項目のリストについてメンバーの点数をつけ、その評価点を合計する。

主に五段階評価が用いられ、1(全くできていない)から5(非常によくできている)の点数を評価者がつける。

基準が明確であり、定量的にデータが蓄積されるため、比較の材料にもなる。また、記述量が減るため効率的に行えるというメリットがある。

一方で、評価者の状況(時間のゆとりや好き嫌い)が色濃く反映される可能性もあり、評点の根拠を明確にしなければ、メンバーのモチベーションが下がる結果を招くかもしれない。

 

行動評点法

上記の重要行動評価法と評点法を組み合わせたやり方で、メンバーに与えられた職務についての望ましい行動例がリスト化されており、評価者は実際にどれに該当しているかを判断し、得点をつけていく。

行動評点法では、リスト化される行動例には次のポイントが必須となる。

  • 明確である
  • 観察ができる
  • 測定ができる

職務についての望ましい行動例や効果がないので望ましくないものについては、業務に実際に従事しているメンバーから挙げてもらい、複数から漏れ・偏りの無いようにリスト化する。

さらに、それら重複のないようにまとめた要素をカテゴリ分けして、難易度のレベルに応じて分類することで、体系的で、具体的な行動評価項目ができる。

 

日誌記録法

もし評価が一年に一度しかない場合、評価者は何を頼りにメンバーを評価するだろうか?

人間の記憶はいい加減であり、半年前のことよりも3ヵ月前のことを、3ヵ月前のことよりも1ヵ月前、1ヵ月前よりも昨日や今日のことをよりよく覚えているものである。

評価してもらう側も、日々の忙しさに追われて月日が経つと過去の栄光が薄らいでしまうし、記憶があやふやになってしまう。

より新しい記憶や出来事によって評価が決められるのではなく、期間中に業績を上げた人が適正に評価されるためにも、評価対象となる重要な行動を日々記録しておくことで、評価の精度を上げることができる。

評価者は、メンバーの特徴や性格というあいまいなものではなく、業績に結びつく行動に注目するため、ミスやバイアスを防ぐことができる。

もちろん、毎日記録することが求められるため手間はかかるが、日報の一部か、日報の代わりとして行えばデータは蓄積されるし、中身のない日報が少なくなる可能性は高い。

 

複数評価

フィギュア・スケートやシンクロナイズド・スイミングなどのスポーツでも採用されている、複数の評価者による評価手法である。

複数の者が評価を行うことで、評点が正規分布に従って平均的なデータが得られる。また、最高の評価と最低の評価を排除することでより正確な評価が期待できる。

 

選択的評価

メンバーが持つ専門性に応じて、その分野についてのみ判断する方法。

たとえば、技術力が高い従業員については、製造やメンテナンスの技術分野において「判断力」や「緊急事態への対応力」、「作業を効率的に進める力」、「作業環境を適切に保つ力」などの専門的な評価項目を基準にする。

逆に、営業職で評価されやすいような「説明がうまい」「はっきりと話せる」などの項目は除外するということになる。

この評価方法では、専門性が理解でき、なおかつ、日ごろから行動を見ている者でなければ評価できないため、直属の上司や同僚が評価者となることで正確なデータが得られる。

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【キーワード】業績評価者

誰が評価を行うか

業績評価の対象が定まった場合、誰が組織メンバーの評価を行うのが適切だろうか?

 

直属の上司

どのような組織に行っても、メンバーの評価を直属の上司が行うのは一般的である。上司は、部下の業績を管理し、責任を持つため当たり前だと考えるからかもしれない。

しかし、そもそも評価とは何で、どのように行うことが適切かをわきまえている上司は世の中に少ないように感じられる。部下が持つ特異の強みを把握し、部署や業績にどのように貢献しているか、明確にできない上司がいることも間違いない。

さらに、上司自身も今の仕事のやり方に評価システムがそぐわないと感じていたり、部署の人数によってはひとりで把握しきれない場合もあるなど、評価する側にも問題を抱えたまま伝統的なやり方で進んでいるのが現実だろう。

 

同 僚

一緒にはたらいている同僚(先輩や後輩を含む)は複数人いるため、上司ひとりの判断よりも平均的なデータが取れる点で優れている。

何より、上から見ているよりも、同じ現場で毎日接して、行動を共にしている方が貢献の度合いや強みなどを直接に感じやすい。つまり、情報がフィルタリングされずに伝わるのがメリットと考えられる。

一方で、同僚を評価することにためらいがあったり、相互に慣れ合う、または、敵視していたりすると、評価が偏ってしまう可能性はある。

 

自 分

自分自身が仕事を評価ができて、そのまま報酬に反映されるとしたらどうだろうか?

評価時に自己評価を入れる企業もあるが、それがどの程度実際の評価に反映されるか、上司との評価と一致するか、一致しない場合にどうするのかなど、実質の運用面によって自己評価は形骸化する恐れがある。

多くの場合、上司の評価と自己評価は一致しないようだ。なぜなら、仕事ができない人ほど過大に評価したり、自分こそが会社の役に立っていると思う人は自分の都合のよい評価をつけるからだ。一方で、淡々と仕事をこなし、組織に貢献している人ほど自己評価を控えめにしたり、目立たないため上司からの評価が低くなってしまうこともありえる。

評価プロセスの設計においては、自己評価を入れることも有効かもしれないが、よくよく考える必要がある。

 

部 下

管理職や部下を持つメンバーには、その部下から評価をさせることで客観的な評価が得られやすい。同僚と同じで、よく接するため正確かつ詳細であり、複数のデータが取れることがメリットで、好き嫌いによって偏らないかどうかは気にしなければならない。

また、部下の正直な評価が上司に伝わってしまい、報復されるなどのリスクがあると部下による評価は歪められてしまうため、無記名にするなど制度設計に注意が必要となる。ただ、部下が少ない場合は「あいつが書いたな・・・」とわかってしまう場合もあるだろう。

しかし、自分のマネジメントについて下からのフィードバックを受ける機会の少ないポジションにある人にとっては、部下からの評価は自己改善やマネジメントスタイル確立のために有効と考えられる。

「良薬は口に苦し」を受け入れるだけの器を持たなければ、無能のままそこで終わってしまうだろう。もちろん、好意的な評価を受けることで自信がついたり、前向きになれる効果もある。

 

360度評価(360度サーベイ)

360度評価は、評価されるメンバーと接する機会を持つすべての人から評価を受けるものである。

これまでに挙げた上司、部下、同僚だけでなく、部外で連携するメンバーや社外の取引先担当者などからもフィードバックを受け、それを評価に取り入れる。

多くの人を巻き込むため、手続きに時間がかかったり、システムへの投資が必要になる場合もある。

しかし、より多くの人が評価に加わるため、より客観的なデータが集められ、評価プロセスに全員が参加することで公平性や一体感が高まり、正確な情報が得られるというメリットもある。様々な人から評価を受けるため、評価を受ける本人も納得感が高まりやすい。

キャリブレーション(相互調整)

それでもやはり上司による評価にこだわりたいという組織には、プロセスに「キャリブレーション」と呼ばれる手法を取り入れるとよい。

キャリブレーションは、本来測り器に物をに乗せる前に数字をゼロに合わせるなどの意味に使われる。

これを業績評価の場面に用いて、評価の基準や方法を前提として揃えておき、さらに評価後も相互に調整することで、組織全体でバランスを取るものである。

ある上司がひとりの部下をえこひいきしたり、極端に悪い評価をつけた場合には、同レベルの評価者会議によって全員のデータを比較し、全体で調整していく。したがって、ある側面では直属の上司だけでなく、同レベルの上司からの判断も入る可能性はある(「○○くん、もっとがんばってると思うんだけど…なんでこんなに低いの?」)。

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【キーワード】業績評価の対象

何を評価するか?

組織が何を業績評価の対象とするかによって、メンバーの行動は大きく左右される。

たとえば、営業部で一日に訪問した会社数を基準に評価される場合、従業員は一日に自分がどれだけ会社をまわったかに関心を持ち、実際の商談内容や見込み客については注意が払われない。

売上のみで評価される場合も、従業員の行動はあらゆる手段を使って売上を立てることにエネルギーを注ぐ。

実際には、そのような単純な方法で評価が行われることは少ないと考えられるが、業績評価の対象を何にするかによって従業員の行動に影響を与えるという点は重要である。

組織は、いったい何を業績評価の対象とすべきだろうか?

 

業務の成果

プロセスや創意工夫などはどうでもよい、結果さえあればよい、と考える組織にとっては、個人が挙げる成果を評価することになる。

売上高、訪問顧客数、獲得名刺数、改善数、生産数、コスト、ミスの数など、数値化されるものが対象となる。

 

プロセス

多くの場合、メンバーの「ある活動や成果が、この業績に結びついた」というように直接特定することは難しい。

チームの業績や大きなグループで一つの役割をこなしている場合は、特に当てはまる。チームやグループ全体の業績を評価することはできるが、どのメンバーが具体的に業績に貢献したかを数値化することは不可能に近い(もし個人の貢献が明確に可視化できるならば、それはチームワークやグループである必要はないかもしれない)。

このような場合、メンバーの評価は結果ではなくてプロセスや行動に重点が置かれることになる。

たとえば、情報共有の速さや他のメンバーへの支援、創意工夫、アイデアの実現、チームへの前向きな働きかけ、さりげないケアやサポート、わかりやすく意味のある報告、接客態度の良さ、気遣い、遅刻・欠勤の数などが対象となりうる。

 

メンバーの特徴

かなり主観的な評価にはなるが、メンバーの性格や雰囲気などを評価基準として用いる企業もある。ワンマン創業者の会社で、人事制度や評価基準が整備されていないところなどが当てはまる。

たとえば、「明るい」「好感が持てる」「元気がよい」「しっかりしている」といった、業績と直接関係があるかどうかわからないものも、評価される。

また、「かわいい」「自信がない」「よくやっている」「デキる」「学歴がある」など、業績やプロセスとどのように結びつくかあいまいであったり、実際は関係がないところも評価対象とされることはある。

評価基準として、成果やプロセスに比較すると疑問視され、弱いと考えられるが、現実として起きることは無視できない。

メンバーにとっては、評価される側に入ったらよいが、努力して成果をあげたにもかかわらず、評価されない側に入った場合はたまったものではないだろう。そのような不公平感はモチベーションの低下につながるため、他でも通用する優秀なメンバーは離職する可能性が高い。したがって、評価制度を明確化して、何を期待しているかメンバーにわかってもらう必要がある。

しかし、メンバーの特徴で評価しているなどとはとても口に出して言えないような組織文化の場合は、無理矢理制度をつくってごまかすか、実質運用が別立てという暗黙の了解が生じることになる。いずれの場合も公平性を欠いてメンバーをあざむくことになり、本質的に有効とは考えにくい。

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