年頭所感-3つの視座から見る、新時代の組織のあり方とは

新年おめでとうございます。2017年の始まりにあたり、年頭所感を述べたいと思います。

私たち人は、まぎれもなく社会で生きています。社会とのつながりによって、社会的秩序の前向きな恩恵の下に私たちは生活を保つことができます。一方で、そのつながりがあるからこそ、マイナスの影響をこうむることがあるのも事実です。

同様に、私たちは組織とのつながりなくして生きることが難しい時代にいます。私たちの生活を安全で、便利で、快適で、楽しくするためには、官公庁だけでなく様々な営利企業や民間法人などの組織の力があることは、自明のことと言えます。

その前提を踏まえ、ITや人工知能をはじめとする技術革新、シェアリングエコノミーの台頭や加速的に進む少子高齢化など時代の流れとともに変わりゆく社会や人の価値観、そして移りゆくトレンド。その流れに翻弄される環境下にあって、組織がどのようなあり方を求められるか、「改」、「決」、「変」という3つの視座から考えることが重要であると考えます。

 

「改」の進化

改善という言葉は日本社会では当然のように使われています。日々の業務改善だけでなく、経営改善や体質改善といった様々なレベルで用いられ、日本人にとっては美徳であり強みとされているように感じます。

しかし、ひとえに改善と言っても、時代の変わるスピードに対して、少しずつの進歩的な改善ではもはや足りず、「進化的な改善」が組織には求められていると思われます。

進歩は、あくまでも同一線上の前進でしかありません。しかし、進化とは何らかの破壊的なイノベーションをも伴った変身であり、既存の路線や形態からは脱し、かつ、前向きな歩みを実現したものです。

2016年は「雇用と労働」について大きく考えさせられる事件がありました。「過労死」という特異的な日本語が世界に知られるようになってから時間が経ちましたが、その内容については時とともに変質しています。働きすぎによる肉体的な負担による過労死が圧倒的多数なのではなく、精神的な影響による自死が増加しており、両者が5割ずつの構成で、現時点で年間約200名の方が過労死認定されています。

また、中途採用市場の活発化からわかるように人材の流動性も高まっており、辞めた理由のほとんどが「賃金」や「労働時間の長さ」によって占めていることは、中小企業をはじめ深い問題を抱えていることがうかがえます。

この点から、労働環境の改善というテーマに多くの企業が取り組み、「進歩的改善」によって一定の成果を挙げてきていたにもかかわらず、変化の速さに追いつかず、無理が生じている現実は見逃せません。

組織は、過去の延長線上にある改善(イノベーション)ではなく、その企業にとってコアとなる部分(聖域)にも踏み込んだ、破壊をともなった進化的改善が求められていると考えられます。

 

「決」の明確化

組織が本来的に抱える課題は大きく3つに分かれます。

まず、事業規模の維持拡大やそれに見合う人員数の確保、労働環境の改善といった、過去のあり方に対する現状維持と向上を前提とする、過去から未来への同一線上に展開できる、進歩的改善課題。

二つ目は、何かを放棄したり、あきらめたり、削ったりするといった前提をもとに、将来の着地点を定める、縮小目線の課題。この課題には事業の整理だけでなく、組織そのものをなくすことも視野に入ります。

三つ目は、既存の常識や定道から逸脱するという前提で、これまでになかった商品の開発、付加価値のついたサービスの提供、新たな路線変更、ルールや制度設計、組織開発など、創造性の高い課題。

組織が以上の3つの課題に臨む場合、「人材」がカギになることは言うまでもありません。事業を維持向上させたり、創造的な仕事に取り組むことだけが人材を要するだけではなく、縮小的な方向に進むことを決め、具体的な行動に移していくことも「人」が主体だからです。もし既存の体制で縮小が決められるならば、新たな人材を採用する意味はないかもしれません。

組織が、将来的なビジョンを定めて人を確保していくに当たっては、自ら抱える課題について見きわめ、それに適した人材を採用あるいは配置していくことが求められます。

また、採用・配置される側から見れば、組織がそれぞれの課題についてどのように取り組んでいるかを見て、自己と職場のマッチングを考えることになるでしょう。

いずれにせよ、組織はどういった問題意識があって、何の課題についてどのように取り組むのかを明確化し、複雑な状況下にあっても進むべき道を「決める」ということが求められます。

 

「変」の前提化

「強いものが生き残ったのではなく、変化に適応したものが生き残っただけだ」

時代と環境が変わる中で、変わりにくいものがあります。それは、これまでの時代を生き抜いてきた組織経営者です。

これまでに述べた進化的改善や取り組むべき課題の決定についても、組織の意思決定は経営者によって大きな影響を受けます。

独断独決のワンマンスタイルは、組織がスピード感を持って成長する段階では前向きな結果をもたらしたはずです。しかし、組織体が大きくなって行動に時間がかかるようになっただけでなく、あらゆる情報が飛び交い、コミュニケーションのあり方が多様化し、未来の予測が難しい複雑な状況下では、いつまでも同じスタイルではリスクが高い可能性があります。

組織が時代に適応して変わっていくためには、経営者が「変わらなければ生き残れないのだ」という前提を持つ必要があります。

その前提をもとに、上記の「改」や「決」に臨まなければいつまでも経営者、あるいは、経営陣がボトルネックになり、組織が停滞してしまうかもしれません。

 

「対」の姿勢

「改」、「決」、「変」という3つの視座から導かれる組織の持つべき姿勢は「対」の一字に集約されると考えいてます。組織が、コアとなる課題に「対する」、つまり、正面から向き合って取り組むことが必要であるということです。

なぜ「対」なのか。

組織が変わるべきことを自覚し、どのように進化すべきかを決めて進むためには、これまであえて見逃してきた、あるいは、目をつぶってきた問題について対峙すべきときだからです。

比較的小規模の事業者が急激な成長を遂げたパターンでは、売上増と事業規模の拡大スピードに乗って放っておかれる問題は、基本的に内政の充実面に現れます。

社内体制の構築、労務環境の改善、社内意見の募集と反映、各種ルールの整備、属人的情報の資料化、社内業務フローの可視化などが挙げられます。内政の問題は、売上の確保と資金繰りへの注意から基本的におろそかにされがちです。

内政面を整備しながら成長してきたものの、やや成熟期に入っている組織にとっては、これまでつくりあげたものの見直しと、時代に沿った制度革新や進化的改善が必要です。

既存の制度やルールは、放っておけば形骸化したり、仕事が属人化している場合にはまったく無視されたりします。情報の共有化がなされていなかったり、不正や法令違反の温床となる場合もあり、その結果として組織にとって致命的なダメージを与える問題に発展することもあります。

現状の維持向上に安住し、新しい路線や新サービス・商品開発などが打ち出せず、同じことを繰り返し、何となく継続している組織は、もはや目を覚ますべきときです。

何をすべきかは、現場にいる問題意識の高い優秀な社員が把握していることもあり、社内の声を聴く必要があります。また、それはしたくないという場合には、社外の声を広く聴くときです。これまで接して来なかった層の人々との交流は、刺激や新しいアイデアを得られる場合があります。社内や外界からもたらされるそれらの情報には、これまでのマネジメントで培ってきた経験と勘がはたらくものが潜んでいます。そのような偶然性にこそ、「対」のヒントがあります。

 

積極的にアウトブリーディングを

組織を進化的に改善・前進させる「対」には、これまでにない情報やアイデアとの接触が必要です。いつもと同じ顔ぶれ、いつも同じ層の人々と交わる機会を持っている人は、その範囲外の世界から疎外されます。そのようなインブリーディング(同系交配)的な習慣は捨てるべきです。

強く、生き残ることができる組織を目指し、新しい刺激や創造性を得るためにも、既存の世界の外と交流し、新しい血を分かち合うアウトブリーディング(異系交配)が行動として求められるのではないでしょうか

 

【コラム】組織文化を変えるために必要な4つのこと

「どうせ会社は変わらない」

「同じことの繰り返し。いつまで経っても学習しない」

組織の規模が大きくなると、そのような声がどこかから聞こえてきます。

企業で言えば、創業期や成長期は目まぐるしい変化が訪れ、立ち止まるひまもないほどに新しい仕事をこなし、社員数が増えればルールや組織体制が整えられていきます。

しかし、いったん安定期に入ると、組織が重みを増して時代の流れに伴う変化に抵抗しようとする傾向があります。

その正体はいったいどこにあるのでしょうか?

 

文化の変革を阻むもの

組織の実体は、それ自体を見たり、触ったりすることは難しいものです。

そのようなカタチのないものに、ぼんやりと輪郭を与えるのが組織文化だと考えられます。

組織の内外の人が、明らかに感じてはいるものの、それが何なのか、それを生み出している源が何なのか、明確にはできません。

もし、わかったとしても、その全体像をつかんで自由にコントロールすることは不可能だと感じてしまうかもしれません。

なぜなら、組織文化を構成するものは硬い地盤のようなもので、組織そのものを成り立たせている核となる部分だからです。

その核を維持しようとする力学が組織には発生しますが、具体的に次のものが挙げられます。

① 経営理念・哲学・信条・社訓などの明文化された方針

② 職場の空間、建物の設計、レイアウト

③ 支配的・独裁的なリーダーシップ・スタイル(ワンマン経営)

④ 従来の採用基準や昇進の慣行

⑤ 確立した儀式(朝礼、年一回の恒例行事、表彰式など)

⑥ 創業やキーパーソンの伝説的エピソード

⑦ 従来の評価基準

⑧ 組織構造(組織の構成、ヒエラルキー、指示命令系統のあり方など)

このように様々な組織を構成する要素が、内部にいるメンバーに対して複雑にからみあって作用し、組織メンバーを逆にコントロールしようとします。

そうなると、組織文化を変えようとする力に対して大きな抵抗を生じ、かえって、守る力が強くなり、守ろう、守ろうと作用すると考えられます。そのようにして成功をもたらした組織文化は維持されます。

 

組織文化を変える4つのチャンス

しかし、不動にして強固に見える組織文化も、次の4つの条件がそろうことで変えられるチャンスがあるとされています。

1. 劇的な危機が訪れるか、または、それを意図的につくり出す

組織の存在をおびやかすような危機感は現状を揺るがし、既存の組織文化のが妥当かどうか、注目されることになります。

劇的な危機のは、たとえば、予期せぬ財政悪化、大口顧客の損失、競合企業の大きな技術的躍進などが挙げられます。

また、組織文化の変革を促すため、経営陣が意図的に危機をつくり出すということもあります。

つまり、組織の存続を根本的に問うようなピンチに対しては、組織が変化への抵抗を弱めるということ、そして、何よりも組織のトップそのものが考え方を変えたり、スタイルを変化させることによって、文化を変えることにつながるということが言えます。

2. トップの交代

これまでとは異なる価値観を組織に取り入れるためには、文化の維持に大きく貢献しているトップを交代させ、新しい経営陣がリーダーとなることが必要とされます。

リーダーの交代は、基本的には危機に対応する場合であり、その能力に長けていると考えられます。たとえば、外部からトップを入れることで、新しい文化的な価値観が導入されるチャンスが広がります。

内部ではなく、外部から新しいトップを選ぶことは、内部のメンバーに対して変革の時が来たというメッセージになります。

一方で、リーダーが変わっても、メンバーの意識の中で「前と何も変わらない」と感じられていれば、組織文化の変革はなされないままとなる可能性が高くなります。

3. 設立後すぐの小規模な組織

ベンチャー企業のような歴史の浅い組織は、組織文化が定着していないため、変革を起こし、新しい価値観を取り入れることが簡単にできます。

売上数千億円規模、従業員数万人という大規模な組織の文化を変革することは、より困難となることは容易に想像できます。

大規模な組織の場合は、サブユニットに分けて考えたり、無駄なものを落としていくリストラクチャリング(再構造化、単なる解雇の促進とは異なる)が求められます。

4. 弱い文化

文化が組織全体に行きわたり、メンバーの間で同じ価値観が共有されているほど、文化は強いものになっています。

一方で、あまり文化が広く共有されていない場合には、弱い文化であり、変革を受け入れやすくなります。

 

以上が、組織文化の変革に必要とされる条件ですが、仮にこれらがそろったとしても、組織文化がすぐに変わることを期待することができません。

文化の変革は時間をかけて進むもので、その効果は年単位、つまり、長期的な目線で測るべきものと考えられます。

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【コラム】組織文化が変化の邪魔をする

組織文化はいったん定着すると、組織が機能的に活動することを促し、個人にとっても考え方や行動の指針になります。

基盤となる組織文化に沿って採用基準や手法を定め、人物の見きわめを行うことで、採用問題の終着点である「組織に合う・合わない」の問題をクリアでき、入社後の離職を防ぎ、長く働いてもらえることにもつながります。

また、新卒の若手や中途採用者の教育においても、組織文化に慣れさせることを優先的に行い、求められる行動や考え方を教えることは、新メンバーが組織になじむことを促進します。

業績評価についても、組織文化のコアとなる価値観にもとづいて制度設計され、実際の評価も公平に行われることで、メンバーの満足度や納得感は高まり、定着につながると考えられます。

 

組織文化のデメリット

一方で、組織文化が生まれてひとり歩きするようになると、その存在が消えることはまれであり、良くも悪くも非常に大きな存在感を持つことは事実です。

企業によっては、その組織文化ゆえに社外から評価がなされ、モデルケースとして取り上げられるパターンもあります。

しかし、そのような組織文化が、独特の存在感ゆえに変化の邪魔をする場合があります。

次のコメントは、ある日本の大手企業(A社)が不正を行って問題視された際に、第三者委員会の報告等に書かれたものの引用です(一部改変)。

  • A社は、100年を超える歴史があり、コーポレートガバナンス(企業統治)に関してはオール5の優等生のようだった
  • しかし、A社のかつては称賛された企業文化が、不正問題の原因となった
  • A社の不祥事の根底に、企業文化が根本的な問題としてある
  • A社には「上司の意向に逆らうことができない」企業文化が存在した
  • 「反射的な従順」と「権威に異を唱えることに前向きでないこと」が不正の根本原因にあった

誰もがうらやむような一流大手企業の実態の一面が、組織文化という切り口からわかりやすく示されています。

いかに優秀な社員であっても、トップダウン型の指示・命令に逆らうことは許されず、言われたことを行うことのみが求められるという文化が、いつの間にか組織の根底に息づいていたようです。

そのような母なる組織文化のもとで育てば、優秀なメンバーとしてやがてマネジメント層に入ったとしても、やはり同じようにトップダウン型で主導する(もちろん、それがどの程度の割合か、というところが組織文化の強さの基準ですので、全員が全員ではないでしょう)。

そして、気づかないままに、いや、無意識のうちに変えないといけないとわかりつつも、同じことを繰り返してしまう。組織文化から外れれば、評価はおろか、自分の地位も危ないとなれば従わざるをえない。

組織文化からの逸脱は、すなわち、「サバイバルの終了=死」を意味するのです。

これが組織文化の生み出す構造(システム)であり、組織で生きる以上、もっとも注意しなければなりません。

 

邪魔な組織文化

しかし、前提として組織文化は中立的に考える必要があります。

つまり、良し悪しの話ではなく、単純に存在すると言っているにすぎないわけです。

最初に見たように、組織文化の機能は組織にとってもメンバーにとっても価値があり、組織への関与の度合いを高め、メンバーの行動の一貫性を高めます。

これは明らかに組織にとって有益となるでしょう。

メンバーの立場から見ても、組織文化があいまいさ(仕事をどのように進めるべきか、どう判断すべきかの幅や何を重要とすべきかの基準)を減らしてくれるのでメリットがあります。

ある意味、上司の言うことに従っていればいい、というのもひとつの基準です。

しかし、もちろん、組織文化が悪影響を与える側面も忘れてはならず、特に、カルト的に強い文化ほど問題になります。

強い組織文化によって共有される価値と、組織が時代に対応してより効果的な活動をしようと考えるときの価値が一致しないとき、文化は邪魔な存在となります。

これは、環境がダイナミックに変化しているときに起きる可能性があります。環境が急速に変化しつつあるときに、固定的な組織文化が適切でなくなっているかもしれないからです。

安定した環境下では、メンバーの行動の一貫性が組織にとって有益となりますが、逆に、文化が組織にとって重荷となり、環境変化に対応する能力を損なうおそれもあります。

 

組織文化の客観視が必要

組織文化は、その存在を自ら見せようとはしません。

会議や打ち合わせの場で多くの人が感じる雰囲気、上下関係でのやり取りに潜む暗黙の前提、社内・顧客への対応の方針(ポリシー)、望まれる言動、これを言えば最後という意見…

組織における人と人との関係の裏でひそかに力学を働かせているメカニズムこそが組織文化であり、それは注意深く見なければなりません。

基本的に、階層の下位メンバーほど組織文化を所与のものとして受け入れます(そうでないと組織でサバイバルできず、早期に離職する)。

そして、上位に近づくほどに組織文化に対して強い影響力を持っています。

逆に言えば、組織文化を客観視し、変えることができるとすればトップやマネジメント層の方にこそ大きな可能性があります。

変化への対応が迫られているとき、組織文化の見きわめと大胆な変革が求められ、それを実行できるのは経営層なのです。

問題を生み出している原因が、問題を解決しようとすることほど難しいことはありません。経営層がこれ成功させるには、自覚と覚悟、そして果断と行動が求められると考えられます。

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【コラム】有効な離職防止策とは~社員が会社を辞める理由~

「社員は会社に入り、上司を去る」

という言葉がありますが、どれほどの核心を突いているでしょうか。

人はなぜ会社を辞めるのか、もちろんその理由はさまざまです。

辞める人が本当のことを言ってくれればいいですが、何となくにごされたり、真実を語らない場合もしばしばです(「あなた(社長or上司)のことが嫌いなんです」とは言えない)。

そうなると、辞める人の気持ちや離職理由を考える場合、まずは主観に頼ります。

しかし、そもそも会社を辞める気がない人、あるいは、絶対に辞められない人(オーナーや家族)では、客観的に起きている事実をとらえることは難しいのが事実です。

主観に頼った離職防止策は、空振りし(「それじゃないんだよ…」と従業員からは思われる)、やはり離職者は出てしまう。それが現実ではないでしょうか。

離職理由について、特に経営層や管理職層と、若者のジェネレーションギャップによるコミュニケーション不全が問題となるケースもあります。

そこで、現代の若者の全体的な傾向を知り、自社の状況に当てはめて考えてみることで有効な離職防止策が見えて来るのではないかと思い、このコラムを執筆しました。

今回は、15歳から34歳までの働いている若者たちを対象にした厚生労働省の調査をもとに考えます。

【参考データ】
厚生労働省 平成25年度 雇用の構造に関する実態調査(若年者雇用実態調査)
回答:全国の15,986人、15歳から34歳、正社員と正社員以外
詳細:http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/4-21.html

※グラフは弊社作成

 

そもそも、仕事に満足しているのか?

現在の職業生活に満足しているかを、項目別に尋ねた結果が図1、2のとおりです。

【図1:正社員の職業生活満足度 単位:%】

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※「不明」は非常に少なく表示していないため、回答の合計が100%にならない。

 

【図2:正社員以外の職業生活満足度 単位:%】

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特徴を箇条書きにします。

・正社員では、ほとんどの項目で「満足」と「やや満足」が50%前後

・正社員の「やや不満」と「不満」の合計は「賃金」が33.8%、「労働条件」が22.3%を除いて20%以下

・正社員以外の「やや不満」と「不満」の合計も「賃金」が35%と高いが、「労働条件」は14.7%とやや低くなり、その他の傾向は正社員と同じ

・正社員の「どちらでもない」が多く占める項目は「教育訓練・能力開発のあり方」が41.3%、「人事評価・処遇のあり方」が35.6%

・正社員以外は「どちらでもない」という回答の割合が全体的に多いが、「教育訓練・能力開発のあり方」、「福利厚生」、「人事評価・処遇のあり方」が特に多い。

 

満足のポイントは「賃金」、「教育」、「人事評価」

続いて、「満足」「やや満足」と答えた人の割合から、「やや不満」「不満」と答えた人の割合を引いた数字(満足度D.I.)を図3に示します。

これは、数字が大きくなればなるほど満足度の高い人が多く、不満足の人が少ないことを示します。逆に、数字が低いほど不満を表明している人が多い項目です。

【図3:満足度D.I(満足+やや満足)-(不満+やや不満) 単位:%】

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「賃金」の項目があからさまに低く、正社員以外にいたっては唯一マイナスに振れています。

「仕事の内容・やりがい」の項目では高い数字になっていますので、「これで給料さえもう少し高ければいいのに…」と思う人が多いからでしょうか。

「教育」「人事評価」に関しては、「どちらでもない」と答えている人の割合が多いため、このような結果に至っていると考えられます。

「人事評価」についていえば、結果的に「賃金」と結びつく可能性があるため、評価が反映されなければ、当然のように満足度は上がらないと考えられます。

しかし、だからと言って賃金をむやみやたらに上げることができない現状を考えると、売上の状況やコスト構造をしっかりと説明したうえで、賃金以外の部分で満足度を上げることが重要なポイントとなるのではないでしょうか。

教育訓練や人事評価制度にかけるコストは、賃金に比べればハードルが低いものと考えられます。

さらに、
教育やトレーニングを実施する
→従業員のスキル・態度が向上する
→顧客満足につながる→売上が上昇する
→給料に反映できる(人事評価の見直し) or さらに教育に投資する
といった好サイクルを望む、という選択肢も可能と考えられます。
もちろん、「そんな簡単にうまく行かないよ」という声も聞こえてきそうですが…。

実際、正社員では「労働時間・労働条件」で不満が多く見られるということは、日々の仕事に追われたり、休日まで出勤している様子がうかがえます。残業代が支払われていなかったり、サービス残業があって、それにも不満を抱えているのが現実であれば、そこに教育や研修をやろうものなら、さらに不満を招いてしまいます。

起きている現象をシステム的にとらえることで、これらの要因が複雑にからみ合っていて、単独の項目だけを改善すればよいという話ではないことがわかります。

「組織をどのようにしたいか」というビジョンと「なぜそのようにしたいのか」という思いを明らかにして、施策として具体化していくことが求められます。

 

過去に会社を辞めた(退職)理由

この調査では、過去に転職を経験した人に「最初に勤めた会社を辞めた理由」を尋ねています。それを示したのが次の図4です。

【図4:初めて勤務した会社をやめた主な理由(複数回答3つまで) 単位:%】

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特に多い回答が「仕事が自分に合わない」「賃金条件」「労働時間」「人間関係」として挙がっています。

最初に見た通り、多くの人が「賃金」や「労働条件」に不満を抱えていることが、そのまま離職理由につながっていることがうかがえます。

さらに、「仕事が合わない」、「人間関係」といったソフトな面での理由が上位に挙がっていることは、従業員が内面の環境を重視して働いていることがわかります。

調査では、転職後に改善されたかまではわかりませんが、満足度で「人間関係」や「仕事内容・やりがい」の項目が高いということは、解決できたのかもしれません。しかしやはり、賃金だけは大きな改善には至らないのが現実でしょうか。

 

今の会社を辞めたい理由

「今の会社を定年までに転職したいか?」という質問もされています。

「したい」と答えた人は25.7%でした。

会社の規模で分けると次のような結果です。

1,000人以上:24.4%
300~999人:22.3%
100~299人:23.8%
 30 ~ 99人:27.1%
   5 ~ 29人:27.2%

大きければ転職希望者も少ないかと言えば、そういうわけではなく、100人から1,000人未満の中規模企業では比較的に少なく、小規模の企業では少し多めになっています。

また、業界によっても数字は変わります。

たとえば、電気・ガス・熱供給・水道業では10.9%、鉱業系12.9%、運輸業・郵便業17.2%、製造業の中でも素材関連では18.6%と、20%を切る業界があります。

一方で、医療・福祉業は35.0%、宿泊・飲食業は34.0%、小売業は32.7%、複合サービス事業は32.3%、情報通信(IT)業27.7%と平均を大きく上回る業界があるのも事実です。

医療・福祉と宿泊・飲食については、産業全体を見た場合に労働者数が圧倒的に多く、全国でも1位と2位を占めます。従事している人が多い分、転職希望者が多くなっているのが理由と考えられます。

そして、転職したい理由が何かを示しているのが次の図5です。

【図5:転職しようと思う理由(複数回答) 単位:%】

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やはり「賃金」「労働条件」を気にしていることは、若者全体に通じて言えることのようです。

「自分に合った仕事をしたい」、「自分を活かせる仕事をしたい」という理由が次に来ているのは、「最初に勤めた会社を辞めた理由」と一致するように、内面的な充実を望んでいることがわかります。

 

では、どうするのか?

全体をまとめると

・働いている若者の3人~から5人のうち1人は、転職したいと思っている

・満足度と転職理由では「賃金」をトップに、「労働時間」などが問題として挙がっている

・「人間関係」や「自分に合った仕事」など、内面的な問題も見逃せない

・「教育訓練」や「人事評価」は、間接的な影響があると考えられる

・従業員を取り巻くものが複雑にからみ合って現状を形成しているため、あるものだけを取り出して論じても仕方がない

などが言えると思います。

もちろん、会社によって個別具体的な事情や状況があって、簡単な話ではないのはよくわかります。

それぞれの会社の現実を見きわめたうえで、「では、どうするのか?」を考えていくのがトップや経営陣、管理職の仕事です。

まずは、今回ご紹介したような項目で社内の現状をデータ化してみることが、現状を認識する第一歩です。

そこから、自社に特有の問題と答えが、浮かび上がってくるのではないでしょうか。

 

離職防止の具体策と効果的な対策

参考までに、10,283の事業所を対象にした厚生労働省の調査データを示します。

まず、若手正社員の定着策を実施しているかいないかについて、70.5%が「実施している」と回答しています。

「定着のためにどのような施策を行っているか」、そして、「(その中で)最も効果のある対策はどれか」を示したものは、図6のとおりです。

【図6:若年正社員の定着のための対策(複数回答)と最も効果のある対策 単位:%】

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半数を超えるところで、「意思疎通(コミュニケーション)の向上」や「本人に合った配置」、「教育訓練」、「採用前の情報提供」が行われていることがわかります。

一方で退職理由や不満の多かった、「賃金」や「労働時間」に対する対策はやや減少することがわかります。

最も効果のある対策としては、上記の順番どおりで来ているものの、「採用前の情報提供」でやや数字が落ちます。これは、定着につながっているとなかなか感じられにくいのかもしれません。「仕事に見合った賃金」の効果が高いと10%程度が考えているのも印象的です。

一方で、「労働時間」についての対策はあまり効果を感じていないようです。

そもそも、どのように会社側(事業者側)は「社員が定着出来ている」と考えるのでしょうか?

他のデータでは、「直近1年間で若年者の離職があったかどうか」を尋ねる質問で、「あった」という回答が8割を超えています。

退職者がいるのはやむを得ないと考えつつも、会社に貢献してくれている社員を定着できていると考えるのは、普段のコミュニケーションによって社員の様子や状況を把握し、さりげないケアやフォローを行えているからかもしれません。

逆に言えば、コミュニケーションを取っていることで「効果のある」「ない」を判断できているとも考えられます。

そうなると、社員の定着の第一歩は、相互理解をつとめるために普段からコミュニケーションの機会をつくることが、自社にとって効果的な対策につながるのではないでしょうか。

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