【セミナーレポート】2017年9月「キャリア」

※下記の文章は、弊社主催「組織勉強会」の参加メンバーによる自主的なレポートです。文言等は修正せず、そのまま記載しております。

組織勉強会レポート

■日 時:平成29年9月27日(水)19時15分~21時15分@福岡市内会議室
■テーマ:「キャリア」
■参加者:異業種から7名

 

第1節:「現代におけるキャリア形成に関して」

本日のお題は「キャリア」である。

多くの方は仕事の経験や経歴といった「職歴」をご想像されるかと思う。

無論間違いではない。だが、今回の「キャリア」を考える上で、念頭に置くべきだと感じたことが多々ある。

「キャリア」とは「書き直しのきく紙に書くもの」ではなく、「石に刻むべき人生の刻印」なのだという認識。そして、「キャリア」がいかに自分の人生や、生活・仕事環境に影響をもたらすかという点。

以下、キャリアに関する考え方の、現代的な変化とそれに付随して出てきた気になるキーワードを簡略して記載する。

①キャリアの担い手の役割変更

20世紀のキャリア形成は簡単に言うと、「組織が責任を持って人を育てていた組織主体型のキャリア形成」が一般的であった。

しかし、社会や経済の不確実性が高まる中で、組織主体型のキャリア形成は限界を迎え、個人が自分自身のキャリア形成を一手に担わなければいけない時代、「自己管理型のキャリア形成」が求められる時代に変化を遂げた。

②理想:組織と個人による双方向のキャリア形成

「自己管理型のキャリア形成」が求められていると言ったが、組織にあって、個人の努力だけに頼ったキャリア形成するはいささか非効率的な話。組織主体型とは行かなくとも、キャリア形成を促進する支援的役割を担うことは出来る。

双方の具体的なアプローチを簡単に列挙する。

【組織】

・組織目標や未来戦略を明確に提示し、個人の将来像の計画を促す。

・新しい業務機会を提供し、成長機会をつくりだす。

・資格支援などの奨学金制度の設置。

・職場外研修への参加提供、キャリアセンター等の設置。

【個人】

・自己分析(内省分析、組織内外から自己評価のフィードバック等)

・人脈の形成。組織内外の両方で。

・需要の高い特定スキルの習得。(他の組織で即戦力とならない極端な使用環境を求められるものは除く)

・スペシャリスト、ゼネラリストとしての能力をバランスよく身につける。

・自分の仕事(功績)の棚卸を定期的に行う。

・選択肢の拡張。(最善を望み、最悪に備える)

個人がキャリア形成を行い、かつ、組織によるキャリア支援が行われれば最も望ましいが、個人はまだしも組織の支援は現状として難しいように思う。

なぜなら、会社規模や財政状況もさることながら、人材を「単なる労働力」としか捉えていない側面が現在も厳然として存在している点が大きいのではないかと考えられるからだ。

現実ベースで考えると、人的資源だ、人的資本だと、環境を向上させようとする働きかけや風潮は少なからずあるものの、数多ある営利組織ではその優先順位は高いとは言えないというのが実情かもしれない。

 

第2節:「キャリアと組織」

【個人キャリアと組織キャリア】

これは個人的な観点・解釈ではあるが、形成する「キャリア」には本質的に次の2種類のものが存在していると考えられる。

「個人キャリア」・・・個人的な知識や経験、技術の習得の積み重ねによるもの。他の社会や組織において通用する汎用性が高く、安定した影響力を持つ。

「組織キャリア」・・・所属組織のみに通用するように培われたもの。汎用性が非常に低く、偏った影響力を持つ。長期形成が前提。

日本は長期にわたり組織に所属するケースが今まで非常に多くみられていた歴史があり、「終身雇用」が美徳とされる時代があった。そのような状況下、「組織キャリアへの信頼」は諸外国より根強く存在していると考えられる。したがって、「組織キャリア形成」の重要度は極めて高くなるのが一般的だ。なぜなら、組織内で広く高い影響力を持つには必要不可欠な要素であるからである。

しかし、個人キャリアと組織キャリアを並行して築いている分には問題ないが、組織キャリアのみに傾倒していると、組織が傾いた際に非常に困った事態に陥ることになりがちである。ゆえに「自己管理型のキャリア形成」が非常に重要になると考えられる。

【産休・育休】

組織キャリアを築く上でとかく問題視されがちなワードである。

制度として公に認められているものの、基本的に『取りづらい』というのが現状の様子。産休に関してはまだしも、現代日本において「育休」のハードルは依然として高い。特に男性が「育休」を取得するという点は個人的に存在を疑うレベルである。

いずれにせよ、制度として認めていながらも組織キャリアとしての「育休」は、良くて「中断」、悪くすると「脱落」と判断されるだろうか?

議論が進む話でもあるが、現実としては決着がつきにくいキーワードでもある。

【リアリティショック】

「リアリティショック」は組織参入後に直面する、期待と現実の摩擦、衝撃・・・『こんなはずじゃなかった』と新入社員がよくぶち当たって、たまに『ペキッ』といっちゃって帰ってこなくなるやつである。

だが実はこれ、印象として若年層では帰還率がそれなりに高いが、年齢が高くなると非常に厳しくなるようだ。理由は、次の「イニシエーション」と関連する。

【イニシエーション】

「イニシエーション」は、社会でいう「通過儀礼」「加入儀礼」なのだが、組織においてもこれは頻繁に起きる。イニシエーションをどう乗り越えるかという点がとても重要だ。

・年齢が高いとタスクイニシエーション(加入儀礼)が困難

業務そのものになじむプロセスで、部署移動などが起きた際に新しい業務に適応するのが難しい、など。

前の職務に浸り過ぎるほど弊害が出る様子。望むらくは経験を適度に生かしつつ、新しい部署で他の人間に協力を求めると吉。下手すると無能のレベルまで逆に昇華して組織キャリアの危機に陥る。ベテラン社員が、ITスキルを求められるような仕事に就くと悲惨な状況が生まれやすい。せめて、人を使って業務を推進するならまだしも、個人に求められるときつい。

・年齢が若いとグループイニシエーション(通過儀礼)が困難

業務云々よりも、社会進出の初期、組織への忠誠心や協調性を最初にどのような形で示せるかという問題。若手社員がイニシエーションをどうくぐり抜けるかは、キャリア上大きなポイントとなる。

個人的観点から推察するに、理想と個人的能力の両方が高い人ほど、ここでこじらせやすい気がする。恭順の猫かぶりぐらいの腹芸が出来ないと組織生活は辛い。だから、理想に燃える新人など「鴨がネギしょって来た」くらいに見事にハマることが多い。

【ガラスの天井】

資質又は成果にかかわらず、属性が原因で組織内での昇進を妨げる、見えないが打ち破れない障壁 。

主に女性管理職の登用や学歴差による昇進差など、能力とは無関係な属性によってもたらされる差別的限界である。

組織といわず、社会的なキャリア形成にも非常に影響があることだと考えられる。

日本でもそうだが、世界的に見てもこの問題はいまだ根深い課題であることは間違いないであろう。

アメリカ大統領選挙、ヒラリー・クリントン候補の敗北後スピーチでも出てきた印象的なワードでもある。

彼女への個人的評価は差し控えるが、スピーチの内容は一見の価値があるものであったと思う。興味があれば是非ご一読願いたい。

日経ウーマン「ヒラリー・クリントン敗北宣言」

【ピーターの法則】

「人はそれぞれ無能のレベルに達するまで昇進する」という、特に上層部が嫌がる話。

耳が痛いし、詳細は長くなるので割愛するが、その対処方法としてメンタリングやコーチングが一策になると考えられる。

【エンパワーメントの促進】

ここでのエンパワーメントは「権限付与」を意味する。

某スーパーマーケットでは現場に権限を委譲することにより、より高いパフォーマンスを発揮させているという事例もある。これは「アカウントアビリティ(説明責任=自らの仕事に対し責任を負う)」の高さの証明であり、組織循環や学習する組織としても大変有用に考えられる。ある側面、キャリア形成を促す意味でも有用ではないだろうか。

【人材の「型」】

一般的に、ビジネスの世界で求められる人材を以下のように定義する考え方があるようだ。これは私が個人的に調べた内容である。

  1. T型人材・・・ひとつの専門分野に加えて、幅広い知識を持つ人材
  2. H型人材・・・強い専門性が1つあり、他の人の専門性と繋ぐ横棒を持ち、ほかの人とつながってHになるという“人と繋がりやすい”人材
  3. Π(パイ)型人材・・・幅広い知識を持ちつつ、2つの専門分野を兼ね備えた人材
  4. Δ(デルタ)型人材・・・3つの専門分野を兼ね備えた人材、幅広い知識は特に必要なし
  5. I型人材・・・ひとつの分野を掘り下げ、専門知識を持つ人材(スペシャリスト)

長年仕事に携わっていると⑤のI型になりやすい(〇〇一筋何十年など)、少し前までは①のT型人材がトレンドだったようだが、最近は特に②のH型が求められているという。

非常に興味深いのは、②のH型の重要性が他社との関係性を重視している人材であり、個人で完結していないという点だろう。②を除く①~⑤の人材は自己完結型である。だが、②のH型は他とつながれる=他者を常に意識しているのだ。つまり、つながる環境を形成、もしくは発見する能力があるということになる。

また、このH型人材、言うは易しだが、実際に実現しようとするとこれは中々骨が折れることである。

専門性を持った他者とつながるには、同等と言わないまでもそれなりに高い、相手と同じ専門性を持つ必要があるからである。そういった意味では、③④のΠ型Δ型人材は専門性さえ合致さえすれば、T型よりはハードルが低いといえるだろう。

総括すると、現社会で求められているのは最低でもH型、望みうるならΠ型もしくはΔ型でありながら、H型の特性を持った、複合型であるΠH型もしくはΔH型といったところであろうか。

 

第3節:「我が身を振り返り」

私の置かれている環境も、さほど現代のキャリア形成の在り方と変わりはない。典型的な「自己管理型」である。

一応、考課表の中には必須項目として「自己学習」が設けられており、達成しなければ査定に響くようなシステムが取られている。また、特定分野ならば通信教育を受講出来るようにも整えられている。

が、これがまた面白いほどに機能していない。

ここでその原因をいくつか挙げてみよう。

・自己学習の評価基準が曖昧であり、半ば形骸化している。

・考課表の裁定に対する影響が少ないため達成するメリット、未達成のデメリットが失われている。

・現場第一主義なので、現場が回ってさえすれば一切の追求がない。

原因の一端には、「自己キャリア形成」が重要とタテマエでは言いながらも、ホンネでは「組織キャリアが重要視される文化」が残っていることにあると推測される。

弊社の現場責任者の多くは個人キャリアではなく、長い間組織キャリア形成のみに傾倒して昇進をしてきた者たちばかりだ。そして、考課表の評価者はその現場責任者がその多くを担うことになる。

その結果、生まれたのは「自己管理型キャリア形成」など意に介さない、偏ったスキルのみを持つ特定環境下でのみ有能なスペシャリストたちである。

俯瞰してみるといびつなことこの上ない人材の集まりであるが、会社を回す上ではなんら支障がなかったためにこれまで問題とならなかった。

そう、会社が傾くまでは

弊社は傾いた。

言い逃れが出来ないレベルで傾いた。その結果、悲惨な現状が顕在化し、「身の振りようがない人間」が多数生まれたのである。

弊社が傾いた際に提示したプランは2つ。

・大手への吸収合併

・早期退職者制度の実施

要は身売りと人員整理である。

そこで社員が取りうる手段は「辞める」か「辞めない」かの2つであった。

本件の経緯は割愛するが、ここで問題となったのは「身の振りようがない」社員が多数いたことである。

組織キャリアのみに傾倒した結果、最善を望み、最悪に備える選択肢を作ってこなかった。なんら有用な選択肢を持たず、わずかばかりの退職金を貰って退職する者、会社に苦渋の決断で残留する者が多数発生することとなった。

この結果を読んでいただければ「キャリア形成の失敗」のリスクがどれだけ手痛いものか、お分かりいただけるだろう。

今更の話であるが、「組織は守ってくれない」という現実をまざまざと見せつけられた話でもあった。

 

第4節:「まとめ」

今回の勉強会の中で、ある方がおっしゃっていたことが強く頭の中に残っている。

「自分だけの武器を持ちなさい。組織にとってどうとでもなるような人材にだけはなってはいけない。そうでなければ不安定化した状況の中で、仕事を続けられなくなる」

蓋し金言である。

目まぐるしく社会が変化していくのは今に始まったことではないにしろ、多くの技術革新や、不安定化した政治情勢がいかなる化学反応を起こして、いついかなる時に自分の環境を一変させるかも分からない世の中である。

そういう観点から考えると「キャリア」というものは、社会に対して個人が持ち得る最大の武器かもしれない。

最後に、私の個人的見解ではあるが、「正しいキャリア」を築いた安定した人材は、組織、ひいては、社会においても「救いとなる存在」ではないかと思う。

安定した存在は、その存在をもって荒れた環境であっても安定化させる力=影響力があると考えるからである。

だからこそ私は影響力を持つに至る「キャリア」をなんとか残したいと考えている。

まずは最初に、中間目標としてはH型人材。そして、最終目標としては、最低でもΠ型、出来ればΔ型である。

これを10年で形にしたい。

不安定な時代に「輝ける人材」になりたい ―― 密かな願望ではあるが、そういった私の目標・熱意が、より良い未来を形づくる礎の一端になればと、切に願うばかりである。

(以上、N)

【キーワード】キャリア用語集

キャリアデザイン

キャリアデザインは、自分自身のキャリアを成功に導くために、公私を含んだ目標を描き、そのプロセスを具体化することである。

キャリアの成功とは、自己イメージ(アイデンティティ)と照らし合わせた基準で考える。

それは、仕事に「うまく当てはまっている」状態で、かつ、自分自身で納得できていることである。「他人より多い収入」とか「同期よりも早い出世」とか「名誉ある地位」とか「あふれるほどの資格」とかではない。仕事を通じて生きがいや充実感を得ることであり、さらには私生活でも自らが描いたイメージを反映することも求められる。

ただし、キャリアが成功したという実感は、キャリアの初期に感じることはまずない。むしろ晩年になって自分の職業人生を振り返った時に実感することの方が多いと思う。それだけわかりにくいものだが、早く実感できないと焦ってしまう。

もちろん、その過程ではジレンマに陥ることもある。実際に働いたり、年齢を重ねる中で現実を知り、どちらかを取ればどちからを捨てざるをえないトレードオフの関係を痛感することもあるだろう。しかし、キャリアデザインはそのような制約をいったんは外して考えてみることが重要で、キャリアの成功を実現するために、どのような仕事や行動が必要か、それをはっきりさせることが目的のひとつでもある。

キャリアを成功させる方法は、年齢・キャリア段階に応じて、適切に行動し、能力を高めていくことが必要で、節目に沿って、過去のキャリアデザインを振り返り、追加・修正を行うことが大切である。

キャリアパス

その職場に用意されている職位や仕事の将来的な一連の道筋のこと。

キャリアパスを全く描けないと将来に望みをなくしてしまい離転職につながる場合もあるが、先が明らかに見えてしまいモチベーションが維持できなくなることもある。キャリア開発の一環として、キャリアパスの構築を支援、あるいは促すことが企業でも行われている。

 

キャリアプラトー

組織内ではそれ以上の昇進が難しい位置にたどり着くこと。キャリアパスの最終地点とも言える。

個人の選択は
①そのまま維持する
②組織内外へのキャリアチェンジを図る
③別のキャリアを歩む
となる。

 

キャリアチェンジ

組織内での職種変更(開発→営業など)または組織外への同・異職種への転職。

自らの意思で行ったものとそうでないものも含む。

 

キャリア転換

キャリアチェンジよりも広い概念で、次の4つを指す。

①人生の役割の変化
②人間関係の変化
③日常生活の変化
④自己概念の変化

たとえば、昇進・昇給、離転職、失業、異動・転勤、結婚、出産、子どもの自立や定年など、公私含めたキャリアに沿った節目となるイベントが、キャリア転換には含まれる。

 

役割葛藤

個人が果たすべき一連の役割の中で矛盾が起きること。

専門職でいつづけることを望む人が、管理職のキャリアに進んだ場合やそれを会社から望まれた場合などに起きうる。

 

社会化

個人が組織に適応する、または、適応させられることを意味する。組織の価値観を受け入れ、守るべきルールを内面化するプロセス。

一方で、個人が給与や地位、やりがいのある仕事を得るため積極的に組織人になろうと努力する過程でもある。

社会化にかかる時間は個人差がある。社会化が成功するとおおむねキャリア発達に示される道筋をたどり、失敗すると適応障害を引き起こしたり、ワーカホリックのような過剰適応を起こしたりする場合もある。

組織にとっては生産性の上下、離転職にかかわるもので、メンバーの社会化プロセスは非常に重要な意味を持つ。

 

ワーキングプア

生活保護以下の低賃金で働かざるを得ない人々。社会化を受ける機会が全くないため、キャリアを考えることが実質的に不可能である。組織内の問題だけでなく、貧困化や教育格差等、社会においても負の連鎖が起きる。

キャリア形成や社会化の概念は正規雇用の人たちだけのためにあるわけではなく、組織は非正規雇用の人たちの社会化も考える必要がある。あるいは、国や地方公共団体等の積極的な支援が必要とされる局面に日本の社会はすでに来ていると考えられる。

 

ジェンダー・ギャップ指数

世界経済フォーラム(http://www.weforum.jp)が毎年発表している、国別の男女間の格差の大きさを示す。女性の経済への参加、雇用の機会、政治的な権限、教育の機会、健康について指数化したもの。

2013年指数ランキングでは136国のうち、北欧を中心に欧州国の順位が高く、5年連続でアイスランドが1位。アジアではフィリピンが5位で、中国が69位、日本は105位、韓国が111位となっている。

 

ジェンダー不平等指数

国連開発計画が「人間開発報告書」で毎年公表するもの。保健分野、エンパワーメント(権限委譲)、労働市場の3つにおいて、国家の人間開発が男女の不平等によってどの程度妨げられているかを示すもの。

日本は148ヵ国中総合21位(上位ほど優れている)で、保健分野が非常に優れているものの、男女共同参画においてはまだまだ課題が残されている。

 

本説明文は(株)若水の作成によるものです。
転載・転用・問合せをご希望の方は下記フォームよりご一報ください。
また、本説明文は弊社の解釈にもとづき執筆されています。
雑誌記事や論文等による学術性を保証するものではありません。

お問い合わせはこちらからお願いします。

【キーワード】キャリア・アプローチ

キャリアのリスクとアプローチ

かつての日本では、リスクを好まない大多数の人々によって会社が支えられ、会社による恩恵を受けることで個人は自分の生活や家族を支えていた。

これは入社から定年まで会社が応え続けるという前提に裏打ちされて成り立っていたものである。そのような会社では、個人はその組織において有効な知識や技能を身につけ、それに磨きをかければよかった。

しかし、その組織で磨かれたスキルは必ずしも他の企業で求められるものとは限らず、かつて企業と個人の関係を支えていた前提が、ほとんどの企業で崩れた現在の状況では、むしろ特定の組織内でのみ有用なスキルを身につけて組織外で通用するスキルや知識の習得に熱心でないまま働き続けることが、個人の将来キャリア上大きなリスクを伴うことになる。

この状況について、会社の責任にすることも容易だが、それを叫んだところで何も変わらない。前向きな視点に変えて、様々な選択肢の中から個人が自らのキャリアを選び取って、自分の生き方に責任を持つ時代になったと考える方がより生産的だろう。

このような状況を打破する裏技はない。地味ではあるが、組織と個人ができる具体的なアプローチを以下に、個人と組織の別で掲げる。

個 人
1. 己を知る
自分の長所と短所を理解する。PRできる能力・スキルは何かを正直に明らかにする。一人で客観的に行うのは難しいため、組織外の人にキャリア相談すると進みやすい。
2. 自分の評判を把握する
自慢にならないように、自分の業績や功績を組織内外の人にPRしてみる。できればフィードバックをもらう。
3. 人脈を構築・維持する
地元、専門職、交流会、セミナーなど組織外での人脈づくりに努めること。
特に、「社外」でのコミュニティを意識することが重要。
4. 最新の技術を身につける
需要の高い特定のスキルを身につける。他の組織では即戦力とならないような、ある組織でのみ通用するスキルの習得は避ける。
5. スペシャリストとしての能力とゼネラリストとしての能力をバランスよく身につける
専門分野だけでなく、変化する職場環境に多面的に対応できるように他分野の能力も養う。
6. 自分の功績を記録する
やりがいを高め、自分の能力を客観的に証明できる仕事や業績を記録しておく。定期的に仕事の棚卸をするとよい。
7. 選択肢を広げておく
最善を望み、最悪に備える。いつ何が起きても大丈夫なようにすること。
「会社がつぶれても生きていける」状態をつくりだす。
組 織
1. 組織の目標や将来的な戦略を明確に伝える
メンバーが組織の方向性を理解すれば、そうした将来像に合わせて個人的な計画を策定することができる。
2. 成長機会をつくり出す
社員に、新しく興味深く、かつ専門的にやりがいのある業務経験の機会を提供すること。
3. 財政支援を提供する
最新のスキルや知識を身につけるための支援策として、奨学金制度または支援金制度を設ける。
4. メンバーが学ぶ時間をつくり出す
有給で職場外研修に参加させる。また、仕事の負荷を軽減させ、従業員が新しいスキル、能力、知識を身につけるための時間的余裕を持てるよう配慮する。
5. キャリアセンター等の支援の場をつくる
社員のキャリア上、役に立つ最新の情報を提供したり、相談に応じてキャリア開発を支援したり、定期的なセミナーを実施するような交流の場をつくる。

基本的に、組織ができることはメンバーを自立させ、継続的にスキルや知識の習得を促すことで社員が自分の市場価値を維持する手助けをすることである。

一方で、個人ができることは自分を個人事業主のように考え、自分自身でキャリアを管理し、伸ばしていくという責任を持たなければならない。

 

本説明文は(株)若水の作成によるものです。
転載・転用・問合せをご希望の方は下記フォームよりご一報ください。
また、本説明文は弊社の解釈にもとづき執筆されています。
雑誌記事や論文等による学術性を保証するものではありません。

お問い合わせはこちらからお願いします。

【キーワード】キャリアの法則

キャリアの法則

組織内部には、個人のキャリアを考える上で次の2つの法則が存在する。

どちらも、あまり前向きなものではないが、組織の現実を知るためには重要な手がかりとなる。これらをどのように打ち破るのか、組織と個人にとっては、大きなポイントになるだろう。

ガラスの天井

天井がガラスでできているため通常は目に見える形で存在せず、気が付けば頭を押さえつけられ、それ以上は登ってはいけないという構造。

主に女性の管理職登用や学歴による昇進差など、能力とは無関係な属性によって差別的にもたらされる限界のことを指す。

○組織的な対処

能力とは関係のない理由でキャリアに限界を設定することは理不尽と考えられ、またガラスの天井によって企業は損失をこうむっている可能性もある。

一般的に、女性管理者の方が男性よりも評価が高い傾向があり、また女性の役員が多い企業は少ない企業よりも収益力が高いことが報告されている。

したがって、組織としてはガラスの天井を取り払い、機会をオープンにすることが最善策かもしれない。

ピーターの法則

人は、それぞれ無能のレベルに達するまで昇進するということ。

無能とは、組織に貢献できないことを意味する。組織の中で限界を感じる人や感じさせる人は、むしろ圧倒的多数を占めるというべきで、すべての人が情熱的かつ有能に働くような組織はない。

しかも、有能かどうかは組織内部における相対的なものでもあり、また個人の成長によって変化することもある。

組織において振るわないメンバーは、ローパフォーマー(低業績者)として認識される。ローパフォーマーは、個人としてそのことに気づくことと、その認識をもとにどう向上していくかが課題となる。

○組織的な対処

その組織の中で能力を発揮できず無能とされる人も少なからずいるのは事実であるため、その現実から目を背けずにどのように処遇するか決めなければならない(人的資源管理)。

能力発揮のために早めにメンタリング(※)やコーチング(※)によって指導を行うか、本来的に適性がないのであれば組織外に可能性を見出すように促すことも一策となる。

ローパフォーマーをどう扱って対応していくかは、制度や組織文化にかかわるコアな部分であり、その考え方や方針によって、メンバーのモチベーションやキャリア形成に影響を与える。

※メンタリング:仕事において、経験豊かで知識、影響力を有する人が、それを持たない若者を個人的に援助し、キャリア発達を促進すること。非公式の人間関係によるもの。相性の問題もあり、必ずしもプラスに働くとは限らない。

※コーチング:ある人が目的を達成するために、それを支援する役割を果たすこと。経営者の育成や部下の指導法などに使われる。

 

本説明文は(株)若水の作成によるものです。
転載・転用・問合せをご希望の方は下記フォームよりご一報ください。
また、本説明文は弊社の解釈にもとづき執筆されています。
雑誌記事や論文等による学術性を保証するものではありません。

お問い合わせはこちらからお願いします。

【キーワード】キャリアの現実

組織におけるキャリアの現実

組織の中でキャリアを順調に発達させ、望み通りなし遂げられるケースは少ない。

組織の内部には、個人のキャリアに対する障害、ぶつかるべき壁など様々な要素があるからだ。たとえば次のようなものが挙げられる。

1. ポスト
昇進できるポストに限りがあったり、名ばかりの管理職名がつくられたりするなど、出世欲のあるメンバーの望みがかなえられにくいパターンがある。

また、社内の年齢構成のいびつさによって、年功序列の場合は管理職候補が多くなってしまい滞留するパターンや、ある世代だけが少ないためにマネジメントを担える層が少なく、人的リソース不足に陥り、若手が育たないまま組織の将来を担うこともある。

いずれの場合でも、ベテラン、若手をとわずキャリアの行方について暗澹たるものを持たざるをえない。

もちろん、すべての人が出世をしたいと思っているわけではない。近年では、仕事とプライベートのバランスを第一に考える風潮が若者を中心に出てきたり、肩書きも階層もない「ホラクラシー」と呼ばれるフラットかつ自由な組織風土をつくる試みも見られる。

2.報酬制度
給与や賞与といった、組織内の資源をどのように配分するかというテーマは永遠の課題のように思える。

業界、業種によっても相場があり、会社の規模や業績によって給与の限界が生じる。もらえる金銭の多寡で自分の価値を決める人もいれば、私生活を充実させるために給与を考える人もいる。

そのようなタイプにとっては、いくら理念だやりがいだときれいごとを言ったとしても、報酬制度の中身がキャリアイメージに良くも悪くも影響を与えているのが、組織の現実である。

3.同僚・先輩・上司のキャリア
メンバーはさまざまな情報を上司や先輩の現実の姿から得る。特に、学歴やスキル、年齢などの要素から自らの将来的なキャリアイメージを形づくり、期待を持つ人もいれば、絶望する人もいる。

たとえば、同じ年の入社でメンバーを眺めた時に、昇進や昇給が速いかどうかは大きな要素である。

また、若手や新参者にとって、模範となるメンバーはどれくらいいるだろうか。組織の質とレベルは、メンバー層の厚さによって決まると考えられる。採用や組織づくりにおいては、新しいメンバーよりも、古くからいるメンバーに余計に注意を払う必要がある。

4.学習や成長を促すかどうか、昇進への考え方などキャリアに対する組織文化や制度
組織がメンバーのキャリアに対する積極的な意識を持ち、学習や成長を促したり支援したりする文化と制度があるかどうかは、メンバーのキャリアにとって大きな意味を持つ。

そもそも「自分に成長が求められている」などと思ったこともない人も世の中にはいる。さらに、レベルアップが暗に求められているのに「自分は学習する必要などなく、今のままぶら下がっていればよい」と考えている人もいる。それらは組織と個人それぞれのキャリアに対する意識に応じて異なる。

5.個人に与えられた役割・専門性
○○会社に勤めるAさんが、他の企業でも中途採用として通用するだろうか?

その問いに答えるには、Aさんがこれまでどのような役割を与えられ、何の専門性や知識、スキルを持ち合わせていて、どれほどの業績を残してきたかによるだろう。

もし、Aさんが○○会社でのみ通用する知識や技能を持ち合わせている場合、どれほどすばらしい成果があったとしても他では採用されない可能性が高い。

そのような、ある一定の条件下でしか発揮できない知識・技能を企業的特殊能力と呼ぶ。組織メンバーにとって、一般に応用できない経験ばかりを積み重ねる状況は、伸るか反るかの勝負と感じるかもしれない。

 

個人はこのような組織内部の要素、そして組織が置かれている業界の状況、同業界の人々、そして個人的な欲求などあらゆるものが相互に影響し、キャリアに対する漠然としたイメージを持つ。

しかし、それらも時代が変わり年齢を重ねることでイメージは変化するのであり、定期的に確認する場が必要となるだろう。

いずれにせよ、組織においては「キャリアの現実」が存在する。年功序列、終身雇用制のもとで基盤を築き上げてきた日本の社会が、新しいキャリアのあり方を模索し、これまでにない道を開拓することは容易ではない。

実際問題として、給与が高く待遇が厚い大手企業においては、多くの場合、旧来のキャリアイメージが根強く残っており、優秀な人材が集まってもその中でしかキャリアの可能性が示されないからである。

また、中小零細企業においては、IT活用の推進が遅れていたり、キャリアに対する理解や情報が頭にない経営者も多く、大きな課題であると考えられる。

今後の少子高齢化、一方で、ワークライフバランスが求められる社会において、日本人の望むべくキャリアのあり方は変化を迫られざるをえない。

本説明文は(株)若水の作成によるものです。
転載・転用・問合せをご希望の方は下記フォームよりご一報ください。
また、本説明文は弊社の解釈にもとづき執筆されています。
雑誌記事や論文等による学術性を保証するものではありません。

お問い合わせはこちらからお願いします。