「深夜遅くまで残業続きだった管理職が、過労がたたってか、ステージ4のガンで入院しました。しかし、治療の末復帰できました。そして久しぶりに出社したその日、ぼろぼろの状態で現場の肉体労働を手伝っていたそうです。
社員が、その話を本社の朝礼で声高に紹介したところ、役員は『美談だ』とばかりにうんうんうなずいていたんですね。
ところが、朝礼後、新入社員の女性が僕をつかまえて『さっきの話はどういうことなのか。あれを美談とする会社はありえない』と詰め寄られ、説得するのに苦労しました」
―― セミナーの中で、実際に話された内容です。あなたはこの話を聞いて、どう思うでしょうか?
2014年11月に立ち上げた弊社主催「組織セミナー」は、2017年9月で第2期が終了。現在は、第3期を開催中です。
第2期は次の12個のテーマに沿って進めました。それぞれ、簡単なコメントをつけて振り返りたいと思います。
①組織とは?~個人の価値観
「そこにあるのは誰もがわかっているけど、触ることも見ることもできなくて、みんなに重くのしかかっているもの、何だ?」
――とんちのような話ですが、「組織」とは例えるなら「重たい空気」のような存在かもしれません。
セミナーの初回では「組織とは何か」について考えます。ただし、大まかな話から入るのではなく、組織を構成する「人=個人」に焦点を当てるところから始めます。
ここでは、アメリカの作家ル=グウィン著『オメラスの人々』を題材に話を深めました。この中で、参加メンバーは各個人の意見がどのようにお互いに影響を与え、相違点、一致する点を見出していくか、そのプロセスを経験します。
その流れは、個人間で働くダイナミクス(力学)によって動かされる組織の実態にきわめて近いと考えています。また、自らの判断基準=価値観を見つめる時間にもなります。
私の個人的な価値観をご紹介すると、組織には「破壊的機能」が必要だと考えています。前例や固定観念、時代にそぐわない慣習、考え方をぶち壊し、新しく「創造」、そして「維持」する。人の社会はそれを繰り返して、良くなったり悪くなったりを続けています(この機能は自然界に備えられているものに近いように思います)。企業では「改革」と呼ばれることが多いかもしれませんが、ひとつの自浄作用として「破壊」を持つかどうかは大きなポイントになります。
実際、セミナーの中で「すべてを破壊して無に帰してしまった方がいい」というコメントがメンバーから出ました(そういう考えを煽っている過激思想の集団ではありませんのでご心配なきよう。念のため)。これも一つの価値観であるわけで、それを排除するとか善悪判断するとかそういうものではありません。「今の状態で、より良い方向を探る」といった意見も当然に出てきました。
大切なのは、組織が「多様な価値観」を抱えた存在なのだと再認識することではないでしょうか。冒頭の「ガンになった管理職」の話も、人の核心的な価値観に触れる好例だと考えられます。
②個人の価値観・感情
第2回は、私自身のキャリアを題材に「個人の価値観」「感情」について考えました。
人の一生を振り返ったとき、決断を迫られる岐路に立つことがいくつか出てきます。また、自分では「この決断しかないからそうした」と思うものも、他人から見れば「なぜ?別の選択肢の方が良かったのでは?」と言われることがあります。
その決断につながる背景には、複雑な事情やしがらみといった「周囲との関係」もあれば、自分がその時に「大切にしていたもの」や「気持ちの揺れ動き」があり、人の意思決定に大きな影響を与えています。
組織における絶え間ない動きとバランスの中で、人がどのように考え、感じて、どう判断して行動するか、それを自分自身の身に置き換えながら考えることで、個人に対する理解が深まったのではないかと思います。
③モチベーション
「部下がやる気になってくれない」
――あらゆる企業に通じる「永遠のテーマ」の一つが、「モチベーション(動機づけ)」です。
この回では、「JWP女子プロレス(JWP)」を運営するコマンド・ボリショイさんのケースを取りあげました(単純に内容が面白かったのが理由です)。話を深める中で、「何でもモチベーションで片付けていいのか?それ以外にも考えることはあるのでは?」といった根本的な話に及んだところが印象的でした。
終了後に、私がメンバー宛に送ったメッセージを引用します。
昨日はありがとうございました。
昨日もまた非常に有意義な時間を過ごすことができました。仕事に対する僕たちの態度や姿勢、組織に対する思いなどを考えると、「モチベーション(動機づけ)」という言葉ですべてを片づけることはできないということを改めて思いました。
自分のモチベーションを作為的に保つ・上げる、ということはできても、他人に良い影響を与えることは難しい。しかし、自分のモチベーションの高さが周囲に良い影響を与えたり、他人から自分が良い影響を受けたりする可能性についてはケースから十分にありえると思います。
また、一方でそういった短期的なものとは別に、組織に求めるものがはっきりしている人にとっては、長期的にモチベーションが持続する要因が良い影響を与えている。あるいは、モチベーションとは関係なく淡々と仕事をしている人もいるということは、面白い学びでした。
人間はなんて複雑なんでしょうね。いや、かえって、「みんなちがって、みんないい」というどこかで見たコピーのように考えれば、案外シンプルなのかもしれない。
自分のことを振り返ってみると、実はどちらかというと淡々とやってることの方が多く、「文句や愚痴があるなら、自分で変えればいいやん」と、そこでゼロからイチに勝手に踏み出す。そこはモチベーションというよりは、ひとつのクセ。例外的に、干渉のなさや少ない指示のもとで、仕事を全部任されるとピコーンとフラグが立つかも。
ただし、もちろん組織のガンに出くわしたり、邪魔が入ったり、いわれのない批判を受けると、下がります。そういうのは短期的な波があるのでしょう。「自分の表現」というキーワードが出てきましたが、プロレスの話でもあったように、僕も主催イベントをやると死ぬほど疲れてもうやりたくなくなるんですけど、ちょっとした一言や拍手を受けた情景を思い出すと、「しゃあない、またやるか」といったところからスタートします。
モチベーションは人生の段階や自分の変化によって変わる、ということもうなづけました。僕がとらえたキーワードを列挙しておきます。
自分を表現できる
選択肢の多少(これしかない、か、他にもあるのか)
プライド
使命感
極限状態
背水の陣
仲間の存在
必要とされること
周囲や顧客からの直接のフィードバック
やりがい
快感
身内意識(自分がどうにかしたい)
組織への愛着
成長の段階(視野の変化)
軸足
家族-子ども
自分が成長できるかどうか
仕事とモチベーションを切り離す
仕事外・組織外にモチベーションの力点を置く
組織に依存しない
坂本龍馬
信念
創造(つくりあげること)
社外の人に自分が社内でやっていることを説明できるようにしたい
④意思決定
個人も組織も、ときに「非合理的」と思われる意思決定を行うことがあります。いえ、むしろ「合理的な意思決定」をしていることはまれなのかもしれません。
ここでは、個人と集団の意思決定について参加メンバー自身のケースとテキストを参考に話を進めました。
「声の大きい人」は色々な組織にいます。本人にはそのつもりがなくても、他人を威圧したり、意見を押さえ込んだり、そういった勢いを持つ人がいて、異質な意見やアイデアが出にくくなってしまう。声の大きな人が問題なのではなく、その場にいる集団が第一声に流されてしまい、意思決定に影響を与える。それを許容している仕組みが問題だと考えられます。
したがって、個人としては優秀な能力を持つ人たちでも、集団に化すと途端に優秀さがどこかへ隠れてしまい、集団として合理的な意思決定が下せなくなってしまう。それが組織の怖さでもあり、面白さではないでしょうか。
集団における意思決定で最も注意すべきことは、「グループシンク」と「グループシフト」です。メンバー宛の私のメッセージで触れていますので、こちらをご参照ください。
昨日はありがとうございました。
集団の意思決定をテーマに
・会議体のあり方や推進役のリーダーシップスタイルがどうあるべきか
・レベルやキャラクターの見きわめによって個と集団をどのように使い分けるか
・個と集団に対してどういったコミニュケーションを取るか
といった話をみなさんのケースを元に話をしました。テキストからは
・人間が必ず持っていると言ってよいバイアスやエラーについて
・集団に働く力学として「グループシンク(集団浅慮)」と「グループシフト(集団傾向)」
などをご紹介しました。グループシンク(groupthink)は、会議で影響力の強い人物の意向を周りが気にすることや、多数派の意見が空気を支配することで、反対意見が出なかったり、少数派の意見が無視されたりして選択肢が狭まり、合意を意図するあまりかえって質の低い意思決定がなされることを言います。
グループシフト(groupshift)は、会議の最初に出た意見がもし保守的だった場合に、その意見に引っ張られて会議の方向性がだんだんとそちらにエスカレートして、異なる立場の意見が抑えられる現象を指します。
そして、セミナーの場でもグループシンクとグループシフトがどのように生じるかを実際に目にしました。あえてやってたわけではなかったのですが、ふと気づいたらそうなってましたね。
民主主義が必ずしも優秀ではない理由が、ここにあります。卓越した見識と力量によって高い確率で意思決定をできる独裁者が、民主主義よりも優れた政治を行った例が歴史には多々あります。しかし、どれほど優秀な人も年齢を重ねれば衰えるし、亡くなれば同じ人は存在しません。そこが独裁制の難しさであり、人々を搾取し虐げる苛政の例も多々あり、民主制がまだ「マシ」であると考えられるのでしょうか。
この話は企業に通じるもので、マネジメント層が集団に生じる力学を把握しておくべきです。
⑤チーム
2017年のプロ野球日本シリーズでは、ソフトバンクホークスが横浜DeNAベイスターズに迫られながらも、2年ぶり8度目の優勝を果たしました。ホークスのように、逆境に負けず、周りの期待に応えるような成果を出す強いチームを作りたい――(できればコストをかけず)――という願いを、企業経営者が持つことがあるかもしれません。
しかし、「チーム」とは名ばかりで、実際に思うような機能を果たさないケースも世の中には見られます。チームとは何か、どういった有効な手法があるか、そういった内容をこの回では学びました。
私が話題として挙げたのが「ローパフォーマー(低業績者、仕事ぶりが振るわない人)」の扱いについてです。チームにそのような人がいた場合、どうするのか。
その中で、ある管理職の方が「モチベーションが低下していたローパーフォーマーのやる気を持ち直させ、管理職にまで引き上げた」という話が出ました。その具体的な様子について、参加メンバー本人の目撃と自身の体験によれば「人事も目をつけて警告するほどのパワハラ指導ぶりだった」と。
しかしそのおかげで、周りからは完全に見放されていた40代手前の方が飛躍的成長を遂げた。昭和をほうふつとさせる体育会系的な、単刀直入、率直な詰め方。賛否両論あるかもしれないが、その裏に「愛情があるかないか」ということがカギだったということです。
その他、参加メンバーが指摘したローパーフォーマーの三大特徴
「隠す」
「強がる」
「偽る」
が、ヒットしました。このような行動習慣がチーム内で見られると、場合によってはチームから外す、コーチングを行うなど、早急な対策が必要と思われます。
その他、参加メンバーから出されたローパフォーマーに対する対応策は
「一対一で話し合う」
「ゲームのルールを変える」
「役割(フィールド)を変える」
などが挙げられ、「足りていないものを満たす」という現代的で穏和かつ協調的なアプローチとして考えられますが、「単なるいい人で終わってしまうのでは」という意見もありました。
そもそも、「チームプレーに向かない人」もいるのは間違いないわけで、やはり個人の特性をしっかりと把握した上での対策が必要です。
⑥コミュニケーション
コミュニケーションという言葉が使われてから、かなりの長い時間が経つにもかかわらず、未だに組織では「コミュニケーション能力を求めています」とか「あの上司はコミュ障」などのフレーズが使われるのを見ていると、こちらも組織の永遠のテーマなのでしょうか。
一方で、「では、コミュニケーションとは何なのか?」と尋ねると、明確な答えが返ってくることは少なく、何となくのイメージで語られることが多いのも特徴ではないかと思います。
「コミュニケーション」とは、端的に言えば「分かち合う」「共にする」ということであり、Aさんが心のうちに持つイメージを、他人であるBさんに完全に伝えられたら、コミュニケーションが成立したと言えます。その方法は「話す」「書く」「ジェスチャー」「目くばせ」「表情」「電子通信」「動画」など、何でも構いません。
コミュニケーションを考える上で重要なポイントが「ノイズ」の存在です。個人間のコミュニケーションでは、「声が小さい」「伝えたいこととは異なる表現をしてしまう」「ITツールが使えない」。組織レベルでは「物理的な距離がある」「時間差がある」「伝えるための時間が少なすぎる」など、コミュニケーションを阻害する要因が様々に存在します。
特に、日本では「文化」の存在が大きいと、メンバーからの意見がありました。一時期「KY=空気読めない or 空気読め」という言葉が流行り、多くの人に受け入れられた現実を踏まえると、組織における「空気」は色濃く人々を覆っているのかもしれません。
それによって「波風を立てない」「物事を速く進める」というメリットもあれば、「思っていることを言えない」「少数意見が抑圧される」というデメリットもあり、日本の組織においては「空気」こそが最大のノイズかもしれません。
⑦リーダーシップ
モチベーション、コミュニケーションと並んで組織の最大のテーマとされるのが「リーダーシップ」です。
しかし、コミュニケーションと同じく、「リーダーシップとは?」が本質的に語られることは少なく、書籍やネット記事の多くが「マネジメントとの混同」の上にリーダーシップについて言及している現実を垣間見ると、暗い気持ちになる一方で、「八百万の神」を受容する心の広い日本人の美質にも考えが及びます。
それはさておき、リーダーシップとは「目標達成のために周囲に影響を与える能力」です。他者への働きかけですので、実はコミュニケーションのスキルの一種と捉えることができます。したがって、地位や肩書に関係なく誰でもリーダーシップを発揮することができます。そもそも、コミュニケーションで何でも解決するには限界があり、組織の課題や難題をすべてリーダーシップで片付けるのは無理があります。したがって、「マネジメント=組織のコントロール・管理」とは一線を画す方が、わかりやすくなります。
この回では、どのような「リーダーシップ・スタイル」があるか参加メンバーからコメントをもらいました。
「昭和型」
「ルフィ型(『ワンピース』主人公)」
「タヌキ」
「悪魔的」
「メシア(救済する)型」
などについて言及され、日本ならでは?の「社畜型(滅私奉公・根回し優先)」も挙げられました。
その後、「EQ(心の知能指数)」がリーダーシップに大きな影響を与えることをご紹介しました。また、周囲にプラスの影響を与える方法として、「承認」にも言及しました。「承認欲求」については、最近になって「アドラー心理学」が世間に紹介されたことで広まりつつあり、重要なキーワードであると思います。
私個人としては「他人から認められる前に、自分が自分を認められるかどうか」が、自分のリーダーシップへの問いかけになると考えています。
⑧社内政治
組織内の力学を分析・把握する上で、重要な概念が「社内政治」です。
組織は「公式の組織図」や「肩書」によって成り立っている形式的な存在ではなく、「非公式の人間関係によるネットワーク」が大部分を占める有機的な存在です(「派閥」は組織図には明確に表れません)。その意味で、複雑な相互の影響関係を体内に備えている、生き物の身体と似ていると思います。
社内政治は「力」を行使して、「自分または自部門の利益」を確保するために、非公式な働きかけを行う活動を指します。この点から、リーダーシップは「自己の利益」を実現するために使われるわけではないので、一緒にはできません。
社内政治の強さの度合いは、組織によって様々です。例えば、予算確保、昇進・昇給、賞与、評価などは、社内政治が働きやすい場面です。また、社内政治に直面したときに個人がどのような反応を起こすかは、大きな問題です。
社内政治を考える上でのポイントは、「上が社内政治をやると、下もそれに倣う」ということです。みなさんの組織は、何もかもが筋道どおり運営されているでしょうか?
⑨コンフリクト
「対立」「摩擦」を意味するコンフリクト。「空気」を重視する日本では敬遠されがちな言葉かもしれませんが、組織に改革や改善をもたらすには必須のキーワードです。
対立や摩擦といっても、人間関係の悪化につながるものは組織にとってマイナスですが、「タスク(仕事)」に焦点を当てると生産的な効果をもたらします。
つまり、コンフリクトには「良いコンフリクト」と「悪いコンフリクト」があって、組織をプラスの方向に持っていくためのコンフリクトをいかに引き起こすか、それが重要であると思います。
私個人としては、組織をめぐるテーマの中でも気に入っているのが「コンフリクト」です。もう少し若いころは、コンフリクトという概念を知らなかったため数多く失敗をしたこともありますが、タスク(仕事)が進捗する際にカギとなっていたのはこれだったと気付いてからは、良いコンフリクトを起こせることが一つの強みにつながっています。
参加メンバーの中で「ミーティングで延々と1時間以上叱り続ける、一方的に話し続ける人(プロジェクト責任者)がいて困っている」という話が出てきました。生産性や個人の責任者としての資質も問題ですが、もう少し考えてみると、世の中にはそういったタイプの人が大多数ではないにしても、「必ず存在する」という事実が重要であると思います。
コンフリクトはこのような場面にこそ役に立つ概念ですが、メンバーとの話の中で「コンフリクトをいかに受け入れられる基礎をつくるか」がカギになりました。
「沈黙は金なり、雄弁は銀なり」という言葉があります。先ほどの延々と叱る話し手に向かって言いたいところですが、聴き手にとっては、これが「逆もまた真なり」ではないかと思います。
つまり、話す方は「相手が黙っているから話し続ける」のではないかと想像できます。聴き手が雄弁になれば、少なくとも相手が雄弁になることはない。「それが難しいから困っている」という声も聞こえそうですが、一方的なコミュニケーションは、コミュニケーションとは言えません。
私も、延々と話す立場も、やかましく言われる立場も経験がありますが、私はある若手に対して怒り続けてしまったことは今も思い出します。しかし、もっと、他にやりようがあったのではないかと思うわけです。
話す方は、沈黙に耐えられなかったり、話が途切れることは弱みだと思っていたりすると、ますます悪循環になるのではないでしょうか。
その連鎖を断ち切るには、相手がひととおり話して間ができたときに、「~ことですよね?」と相手の伝えたいことを確認したり、「そういう風にお考えなんですね」とか、ちょっとしたくさびが必要なのではないかと思います。そこから反撃(?)する。
コミュニケーション基盤が一方向しかない人は、正直、面倒です。感情的になるとなおさらです。そして、このことからふと思い付いた単語が「コミュニケーション・ケア」です。組織や周りの個人に害を与えるコミュニケーションしかできない人には、必要ではないでしょうか。コンフリクトは、その一助になると思います。
⑩組織文化
「郷に入っては郷に従え」
「ローマでは、ローマ人がするようにせよ(When in Rome, do as Romans do.)」
組織では「そうするのが当たり前」「書かれてないけど、これをやると評価に値する」とされる暗黙ルールが存在します。始めからあるわけではなく、組織が時間と一緒に育むものです。組織が持つ性格や推奨される意味付け、自律的な反応、語り継がれるエピソード、役員にだけ与えられる高級車…
組織文化が強力で、所属するメンバーが広く・強く信奉している組織は、ある意味で「カルト的」です。組織が掲げ、価値を置いている見方に疑いがなく、むしろ積極的に再現しようと努めます。このとき、メンバーの離転職率は低くなり、良い業績を出せる可能性が高くなります。つまり、組織文化が強いことは、組織にも個人にも、有益であるわけです。
一方で、強い文化は「諸刃の剣」でもあります。変化が迫られる場合に、根強い組織文化が抵抗の源となって容易には「変われない」という反応をメンバー間に生み出します。
また、組織文化を考える上で重要なキーワードが「精神性」です。精神性を備えた組織は、個人の内面性を重視し、充実させる取り組みをします。
昨年から政府主導で始まった「働き方改革」は、単純に労働時間の問題だけではなく「ワークライフバランス」といった人々の生活スタイルにも影響を与える議論や取り組みが成されました。
しかし、この動きの側面には「パワハラ」や「セクハラ」など、人の内面を踏みにじる言動・行為を非難する向きがあったことを忘れてはなりません。
組織に潜む「誰もが疑わない自明のルール・価値観」を、「精神性」という観点から見直すべき時代が来たように思います。みなさんの組織には、良い文化があるでしょうか?
なお、この回から参加メンバーのNさんによる「セミナーレポート」が自主的に発表されるようになりました(感謝)。併せてこちらもご参照ください。
⑪組織変革
セミナーの第1回から第10回まで、「個人」から「組織」へと段階を変えて焦点を当ててきました。その最後となる第11回では、「どうなれば組織は変わるのか?」または「どうすれば組織を変えられるのか?」がテーマでした。
時代とともに環境や科学技術が目まぐるしく変わる中、多くの組織で「変わる」ことが求められています。「組織が変わる」とは、その中にいる「個人が変わる」ことと同じ意味だと思います。
では、どうすれば「人はどうすれば動く=変わるのか」「なぜ変化に人は抵抗するのか」について、参加メンバーで話をしてもらいました。
そこで出されたキーワードは次のようなものがありました。
「モチベーション」
「愛」
「強迫観念」
「楽しさ」
「大義名分(きれいごと)」
「評価・報酬」
「世代間のギャップを埋める人の存在」
酸いも甘いも噛み分けるような話がされ、話は「相違をどのように認め合うか」というテーマに発展しました。相手の考え方や価値観についての「違い」をまず認めなければ、人を動かしたり、変えたりするために影響力を与えるのは難しいことが理由です。
また、変化の中で「中間管理職の果たすべき役割」や「相違を持つ人たちをつなげる人」についても詳しく話がなされました。
組織が変化を遂げるために、一方的なコミュニケーションでは多くの場合うまく行かず、用意周到、緻密に計画を立てて反応を確かめながら進める必要があります。その計画を立てるには、やはり個人・集団・組織への理解を土台にして、各レベルへの個別アプローチが欠かせません。
⑫キャリア
第11回「組織変革」で見たように、「最後は個人に還る」ことが組織を知る上での第一歩になります。様々な概念や考え方を学んだ後に「結局、自分はどうするのか?」が重要な問いかけとなります。
そこで、番外編として「個人のキャリア」を設定し、テキストで概念を紹介してキャリアをめぐる様々な論点について、参加メンバーに意見を出してもらいました。
キャリアの話は、「個人の幸せ」と「組織要求」、そしてその狭間に存在する「現実」の問題が中心となります。
例えば、女性にとって「産休・育休・時短勤務」が容易に取れることは、満足感につながるかもしれません。しかし、組織から要求されるものが高い場合、復帰後に育児をしながら期待に応えていくことは困難な場合がほとんどです。そして、結局その女性は組織においてぐるぐると同じキャリアを回り続ける「キャリアトラック」にはまってしまう。
男性にしても、若いころは将来を望まれながらも、成長のスピードが止まり、思うように成果を出せなくなり、「キャリア中期の危機」に陥ってしまうケースが多く見られます。
男女差だけの話ではなく、学歴差や「良い上司に出会えたかどうか」などの要素もキャリアに大きな影響を与えます。
人は常に自分の思いと組織からの思いの間を揺れ動き、翻弄されてしまう…一つの対処法として「組織の重力から離れる」ことは重要かもしれません。ポイントは「自分だけで完結しない」ということです。
時代は「副業」「複業」「パラレルキャリア」など、これまでにない働き方を積極的に勧めるような社会に変わりつつあります。もちろんまだまだの段階ですが、マルチに働くには「他者の支援」が必要です。
「キャリアの健全な発達」においても、他人からの助けを得ることは非常に重要であることが研究的に証明されていて、親しい友人や知り合いを頼ることを私自身があらゆる人に勧めています。
「外の世界」を知り、「多様な人たちの働き方」を知ることで、組織が放つ重力から少しでも離れることができると思います。私がここで言いたいのは、「組織の価値観や考え方が全てではない」という観点です。
人は、世界を「見たいように見ている」のではなく、社会や組織、他人にが作ったフィルターを通して、いつの間にか「見せたいように見させられている」という現実を認識しなければなりません。
「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」
――日本には、後半のくだりが後付けされたことわざがあります。
しかし、空と海、そして陸の広さと豊かさを知っている鳥の生き方もあります。どちらを良しとするか、それはその人の価値観によるのでしょうか。
(以上、弊社代表取締役社長・池田治彦)