【キーワード】社会化

組織文化の維持

組織にとって重要とされる価値観や望ましい仕事の進め方は、どのように受け継がられるのか。

組織文化を定着させ、それを維持するのも人である。したがって、文化に沿った経験を共有し、求められる行動をや考え方を実践に移していくことで文化の維持をしようとする力が組織では働く。

そのスタートは、採用である。

もし、AとBという同じ年齢で、知識、スキル、能力的にも同等の甲乙つけがたい人物のうち、どちらかを採用するとしたらどうするだろうか。

自社のやり方や考え方に合った働き方がや動きができるかどうか、そして、職務を達成して成果を残せるかどうかを見きわめて、AまたはBの採用を決める。簡単に言えば、「AとB、どちらと一緒に働きたいか?」ということである。

この場合、採用決定者は自社の雰囲気や、一緒に働くことになるメンバーたちの様子、上司となる人物の顔などを思い浮かべながら考える。採用はきわめて主観的なプロセスなのである。

組織が価値ありとするものに対して、それを共有する姿勢や考え方、過去の経験があれば候補者は優位に立てる。しかし、組織側から提供される情報や雰囲気などから「なんか違うな」と思えば、それはその組織文化に合わない可能性が高い。逆に、合わないと感じた人物は、組織側も対立を恐れて採用候補からは外してしまうだろう。

 

社会化=組織文化への適応

一緒にうまく働けそうな人物を採用したとしても、最初から組織になじんでいるわけではない。

新しいメンバーが参加した場合、組織の望むやり方を教え、それを強化する方向に組織は動く。

さらに、これまでの習慣や考え方の邪魔をするような可能性があれば、それを排除しようとする。たとえそのメンバーが知っている方法が最新のもので、効率化するものであったとしても、である。

したがって、組織は新しいメンバーが組織文化に対応することを支援する。このプロセスを社会化という。

社会化は、極端な例で言えばカルト宗教集団が行う「洗脳」も該当するし、企業の新入社員が受ける「新入社員研修」も含まれる。社会化がうまく行くかどうかが、組織に定着するか否かのカギを握っているのである。

社会化の最も重要なポイントはタイミングである。一般的に、社会化は組織への参入時に行われる。「鉄は熱いうちに打て」の言葉どおり、新メンバーが真っさらな状態のうちに組織が教えたいことを吸収してもらい、良い状態になってもらいたいからである。

組織文化に反映されるような重要な行動や求められる役割について学べなかった人物は、組織になじまない者、異分子として排除される可能性がある。

「研修」などと銘打っていなくても、OJT(業務を通じた教育)や「ここではこうした方がいいよ、あれはしない方がいいよ」といった善意のアドバイスによって、社会化は継続的に行われる。

【社会化のプロセス】

socialization

社会化は、次の三段階に沿って行われる。

参加前

社会化のプロセスは、メンバーが組織に入る前から始まる。メンバーは、組織参加前からすでに一定の価値観や期待を持っていて、専門的な仕事では事前にかなりの社会化を研修や学校で経験している(転職の場合も当てはまる)。

採用では活動プロセスを組織側が情報提供の場と考え、組織に合った人材が選考対象に含まれることを確実にしたいと望む。採用が成功するには、採用担当者の期待と要求を、応募者側がどの程度正確につかんでいたかどうかによって決まる。

出会い

この段階では、新メンバーがどんな組織かを実際に見て、期待(上司や同僚、仕事内容、全体の雰囲気)と現実のギャップを経験する可能性がある。

もし期待が正確だったとすれば、参加前に感じていたことが確認されるにすぎない。

しかし、ほとんどの場合は期待と現実は異なる。この場合、メンバーはそれ以前のイメージとは違った社会化のプロセスを経ることが必要で、それまでのイメージを捨て、組織が望ましいと考える別のイメージに置き換えなければならない。

極端な場合は、新メンバーは実際の仕事や環境などの状況が当初考えていたものとは全く異なることが原因で、辞めてしまうこともある。このような可能性は、採用活動を適切に行うことで限りなく小さくすることができる。

変 化

期待と現実のギャップの問題に対応する段階で、組織にとって望ましい変化を遂げるかどうかのカギがここにある。

メンバーが組織や仕事を快適だと感じると、初期の社会化プロセスは完了したことになる。この段になると、組織や部署単位のルールが内面化され、それを理解し、受け入れている。

また、同僚から信頼され、価値ある個人として受け入れられたと感じ、仕事を遂行する能力に自信を持つ。また、規則や手順、非公式の取り決めや慣習も含めたシステムを理解する。

 

社会化の成功が離職を防ぐ

社会化がうまく行って、組織ではたらくことが長期にわたってくると、メンバーは色々なことを理解し、前提として受け入れるようになる。

具体的には、組織は自分をどのように評価するか、何を基準として仕事を測定するのか。

組織や周りが自分に何を期待しており、仕事をうまく進めて成果を出すには何が必要かということを知っている状態が生まれる。

社会化が成功すると、仕事の生産性の高さや向上、目標や組織への貢献のコミットメントが結果として現れる。

恐らくだが、一般的に組織に参加して3年目前後で、メンバーが去就を考える傾向にあるのはこの社会化に関係していると思われる。

組織における自分の位置づけや、上司や先輩から得られるキャリア的な情報、そこと重ね合わせて導かれる自分の将来の姿…

社会化がうまく行かず、メンバーが将来的な不安を抱えたままそれを解消できなければ、メンバーが組織を辞める可能性が高まる。

社会化のあり方については、トップも交えてどの組織でも検討すべき課題を含んでいる。

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【キーワード】組織文化の誕生

組織文化の始まり

「業務開始前には掃除をする」

「顧客への対応は迅速第一」

「朝礼はとにかく元気よく」

「社歌は肩を組んで歌う」

組織に入ったとき、既存メンバーは習慣や伝統、物事の進め方を細部にわたって、言われるまでもなく行っている。

なぜそのようなやり方をしているのか?

それは、これまでに行われてきた方法のうち、成功の度合いが高いものを選ばれている。

そして、どれほど成功したかどうかは、ある人物によって決められる。すなわち、創業者である。

創業者、あるいは、実質的な力を持つ人物が決めたルールや行事、ほめたやり方、評価したことがら、逆に、怒りを買ったことなどは、組織メンバーの考え方や行動に大きな影響を与える。

本来的に、創業者は組織がどうなるべきかというビジョンを持ち、物事のやり方について前例に縛られることがない。創業者の発言や行動、決断そのものが前例となる。

規模が小さく新しい組織であれば、メンバーの全員に創業者の価値観やビジョンが強い影響力を持って、それが文化として定着する。

創業者はオリジナルな考えを持ち、その考えをどう実施するかについて特定の考えを持っている。そのような中で、最初のメンバーたちが創業者とのやり取りの中で経験的に学び、繰り返し行われて維持されるものが、組織文化としての始まりである。

たとえば、国際的な自動車メーカーの本田技研工業株式会社は、創業者の本田宗一郎の価値観や考え方がいまも残っているとされる。このような有名企業に限らず、様々な企業を見渡せば、創業者が源となる文化が諸所に見て取れる。

 

組織文化の誕生プロセス

最初の組織文化は創業者の理念や哲学から生まれ、次に採用の基準(どんな人物を組織メンバーに加えるか)に強く影響を与える。

そして、現在の経営陣は、受け入れられる行動や受け入れられない行動について、特定の「空気」をつくることになる。

もちろん、創業者から経営を受け継いだ次のトップも、組織文化に影響を与えるが、先代から続いたものをいかに取捨選択し、新たな文化を生み出すかについては大きな課題となる。

組織メンバーがどのように組織文化を受け入れていくは、次のことに影響される。

  1.  採用プロセスで、組織の価値観と新メンバーの価値観をマッチさせることがどれくらい成功するか
  2.  経営陣がどのような社会化(文化への適応を促すこと)の方法を好むか

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強い文化を浸透させ、組織メンバーをコアとなる価値観のもとに動かしていき、マネジメントしようと思うためには、組織文化とマッチする人物の採用から始めることになる。

トップから直接影響を受けやすい経営陣のあり方と、メンバーを組織文化になじませる社会化の仕組みについて、そのプロセスを客観的に観察・分析することで、トップや経営陣は組織文化がどのようなメカニズムとして機能しているか、理解することができる。

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【キーワード】組織文化の機能

組織文化は何のためにあるのか

A社で活躍している人が、同業他社のB社でも同じように活躍できるだろうか。

業界全体の共通した雰囲気はあるものの、それぞれの企業には独自の組織文化があり、文化によって「その会社らしさ」が表れる。

組織ではたらく個人にとって、はたらく先との「相性」は重要な問題である。

自律的に仕事ができる人が、細かいことにまで管理しなければ気が済まないような、マイクロマネジメント型の上司やトップがいる企業で活躍できるだろうか。そのような人は、プロセスにあまり口を出さずに比較的に結果重視であるような組織文化をもつ企業の方が、水を得た魚のようにはたらけるのかもしれない。

つまり、組織文化とは、組織ではたらく人との相性を図るひとつの基準であると言える。

待遇がどれほど良かったとしても、評価が公平であったとしても、仕事の進め方や評価基準、顧客への姿勢、マネジメントのスタイルについて価値観や考え方が合わなければ、はたらくメンバーは離職してしまう可能性がある。

そのような組織文化の機能は、次の5つにまとめられる。

1. 自他を区別する

A社にはA社の、B社にはB社の独自の文化がある。同じ人がいないように、同じ会社などない。

電話の取り方、あいさつの仕方など細かいところをひとつ取ってみても、異なる場合がある。その根幹となるのが組織文化であり、組織文化こそが自社を自社たらしめているものである。

 

2. 個人のアイデンティティ(帰属意識)を育む

株式の所有とは別にして、メンバーが自分が所属する組織を「自分の組織だ」と思える場面がある。このようなとき、メンバーは組織に対してアイデンティティを感じている。

かたや、「私は○○社の社員である」ということに誇りやプライドを持つ人がいる。

社員が自分と会社をほとんど同一化させてしまい、「会社の考え=自分の考え」と錯覚してしまう人もいる。このような強いアイデンティティを生むのも、組織文化の機能である。

逆に、組織文化が弱い会社ほど、メンバーはアイデンティティを持ちにくくなる。

 

3. 個人の枠を超えたコミットメントを生む

優れた組織文化の下では、メンバーが個人の興味や関心の範囲を超えて会社の目的やゴールを目指すことに貢献しようとする。

自分だけのことを考えるのではなく、所属する部署や組織そのものへの関与を深めることを促すのである。

 

4. 組織システムを安定化させる

ここでいうシステムはIT技術によるシステムではなく、組織メンバーがどのような言動を行うかについての基準を指す。

細かいことを言わずとも、メンバーはその基準にしたがって自律的に活動を行い、組織の一致団結に寄与する。

 

5. 組織内のゲーム・ルールを定める

就業規則やマニュアルとは異なり、組織文化はルールを定めている。いわば、組織内でいかに生きるかの「サバイバル・ゲーム」のルールなのである。

どのような組織でも、明確には言われていないが、コアとなる大前提や「これは知っておけ」という類の知識、「××はしてはいけない」という暗黙のルールが存在する。

そのルールに従ってメンバーは毎日のように行動や発言をしている。

新しく組織に入った新人にとっては、そのルールを学び、繰り返し実践できるようになるまでは半人前でしかない。それは高い地位であろうが、現場のスタッフであろうが、関係はない。

その組織で認められ、評価を受け、昇進・昇給を狙うためにはそのルールにしたがうことが大前提であり、ルールから外れることは「サバイバル・ゲーム」からの脱落を意味する。

誰かがつくった組織の中ではたらき、活躍しようと思うならば、組織文化への理解を深め、自社の文化をメタの観点から観察、分析し、自らの言動に活かす必要がある。

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【キーワード】チームの業績評価

チームの評価をどのようにするか

業績評価の対象は、主に個人が対象として考えられる傾向にある。

しかし、近年の流れとして業務をチーム単位で行い、チームがまとまりとして成果を出すような組織のつくり方を行う企業も現れている。チームの業務プロセスを促進するため「チーム・ビルディング」が注目を集めるなど、これまでの個人のみを対象とした考え方ではなく、業務を中心にしたチームに焦点を当てた考え方も求められている。

そのような中、チームの業績評価を行うために、次の4つのポイントが重要とされている。

1. チームの成果と組織の目的をつなげる

「医療サービスの改善と質の向上を支援し、社会貢献を行う」など、組織には必ず目的がある。

この大前提に対して、チームが挙げる成果が何であるかを明らかにして、目標を定めて、さらにそれを測定する方法を考える。

2. 顧客ニーズを満足するための業務プロセスについて考える

顧客に提供する製品やサービスには、必ず顧客が求めている要件や水準があるため、対顧客のチームについてはその要件や水準にもとづいて判断する。

社内間の取引がある場合は、納品までの時間やミスや不備がないことなど、社内サービスの品質において評価ができる。

また、以上を行うための業務プロセスやフローを分析したうえで、作業効率や成果を出すまでのサイクルタイムなど、重要となるポイントについて数値目標を設定して評価を行える。

3. 個人とチームの両方で評価する

業務プロセスにおいて、メンバーがチーム内で与えられている役割と責任に応じて評価項目を定め、チームの業績に対する個人の貢献度と、チーム全体が残した業績で評価を考える。

野球で言えば、1番バッターは出塁率や盗塁数で評価されるのに対して、4番バッターは得点圏打率やホームラン数によって評価され、最終的にはチームの勝敗についてそのプレーヤーがどの程度貢献したか、両方の観点で評価がなされることに例えられる。

4. チーム独自の評価をつくる

チームの性質に応じて、独自の評価基準を定めることもひとつの選択肢にできる。

チームの目標とメンバー各自の目標が定められると、役割の理解が進み、それぞれどのような強みを発揮して成果を出していくか、チームワークが発揮されることになる。

それにより、メンバーの業務へのモチベーションや連携の意欲が高まると考えられる。

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【コラム】有効な離職防止策とは~社員が会社を辞める理由~

「社員は会社に入り、上司を去る」

という言葉がありますが、どれほどの核心を突いているでしょうか。

人はなぜ会社を辞めるのか、もちろんその理由はさまざまです。

辞める人が本当のことを言ってくれればいいですが、何となくにごされたり、真実を語らない場合もしばしばです(「あなた(社長or上司)のことが嫌いなんです」とは言えない)。

そうなると、辞める人の気持ちや離職理由を考える場合、まずは主観に頼ります。

しかし、そもそも会社を辞める気がない人、あるいは、絶対に辞められない人(オーナーや家族)では、客観的に起きている事実をとらえることは難しいのが事実です。

主観に頼った離職防止策は、空振りし(「それじゃないんだよ…」と従業員からは思われる)、やはり離職者は出てしまう。それが現実ではないでしょうか。

離職理由について、特に経営層や管理職層と、若者のジェネレーションギャップによるコミュニケーション不全が問題となるケースもあります。

そこで、現代の若者の全体的な傾向を知り、自社の状況に当てはめて考えてみることで有効な離職防止策が見えて来るのではないかと思い、このコラムを執筆しました。

今回は、15歳から34歳までの働いている若者たちを対象にした厚生労働省の調査をもとに考えます。

【参考データ】
厚生労働省 平成25年度 雇用の構造に関する実態調査(若年者雇用実態調査)
回答:全国の15,986人、15歳から34歳、正社員と正社員以外
詳細:http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/4-21.html

※グラフは弊社作成

 

そもそも、仕事に満足しているのか?

現在の職業生活に満足しているかを、項目別に尋ねた結果が図1、2のとおりです。

【図1:正社員の職業生活満足度 単位:%】

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※「不明」は非常に少なく表示していないため、回答の合計が100%にならない。

 

【図2:正社員以外の職業生活満足度 単位:%】

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特徴を箇条書きにします。

・正社員では、ほとんどの項目で「満足」と「やや満足」が50%前後

・正社員の「やや不満」と「不満」の合計は「賃金」が33.8%、「労働条件」が22.3%を除いて20%以下

・正社員以外の「やや不満」と「不満」の合計も「賃金」が35%と高いが、「労働条件」は14.7%とやや低くなり、その他の傾向は正社員と同じ

・正社員の「どちらでもない」が多く占める項目は「教育訓練・能力開発のあり方」が41.3%、「人事評価・処遇のあり方」が35.6%

・正社員以外は「どちらでもない」という回答の割合が全体的に多いが、「教育訓練・能力開発のあり方」、「福利厚生」、「人事評価・処遇のあり方」が特に多い。

 

満足のポイントは「賃金」、「教育」、「人事評価」

続いて、「満足」「やや満足」と答えた人の割合から、「やや不満」「不満」と答えた人の割合を引いた数字(満足度D.I.)を図3に示します。

これは、数字が大きくなればなるほど満足度の高い人が多く、不満足の人が少ないことを示します。逆に、数字が低いほど不満を表明している人が多い項目です。

【図3:満足度D.I(満足+やや満足)-(不満+やや不満) 単位:%】

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「賃金」の項目があからさまに低く、正社員以外にいたっては唯一マイナスに振れています。

「仕事の内容・やりがい」の項目では高い数字になっていますので、「これで給料さえもう少し高ければいいのに…」と思う人が多いからでしょうか。

「教育」「人事評価」に関しては、「どちらでもない」と答えている人の割合が多いため、このような結果に至っていると考えられます。

「人事評価」についていえば、結果的に「賃金」と結びつく可能性があるため、評価が反映されなければ、当然のように満足度は上がらないと考えられます。

しかし、だからと言って賃金をむやみやたらに上げることができない現状を考えると、売上の状況やコスト構造をしっかりと説明したうえで、賃金以外の部分で満足度を上げることが重要なポイントとなるのではないでしょうか。

教育訓練や人事評価制度にかけるコストは、賃金に比べればハードルが低いものと考えられます。

さらに、
教育やトレーニングを実施する
→従業員のスキル・態度が向上する
→顧客満足につながる→売上が上昇する
→給料に反映できる(人事評価の見直し) or さらに教育に投資する
といった好サイクルを望む、という選択肢も可能と考えられます。
もちろん、「そんな簡単にうまく行かないよ」という声も聞こえてきそうですが…。

実際、正社員では「労働時間・労働条件」で不満が多く見られるということは、日々の仕事に追われたり、休日まで出勤している様子がうかがえます。残業代が支払われていなかったり、サービス残業があって、それにも不満を抱えているのが現実であれば、そこに教育や研修をやろうものなら、さらに不満を招いてしまいます。

起きている現象をシステム的にとらえることで、これらの要因が複雑にからみ合っていて、単独の項目だけを改善すればよいという話ではないことがわかります。

「組織をどのようにしたいか」というビジョンと「なぜそのようにしたいのか」という思いを明らかにして、施策として具体化していくことが求められます。

 

過去に会社を辞めた(退職)理由

この調査では、過去に転職を経験した人に「最初に勤めた会社を辞めた理由」を尋ねています。それを示したのが次の図4です。

【図4:初めて勤務した会社をやめた主な理由(複数回答3つまで) 単位:%】

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特に多い回答が「仕事が自分に合わない」「賃金条件」「労働時間」「人間関係」として挙がっています。

最初に見た通り、多くの人が「賃金」や「労働条件」に不満を抱えていることが、そのまま離職理由につながっていることがうかがえます。

さらに、「仕事が合わない」、「人間関係」といったソフトな面での理由が上位に挙がっていることは、従業員が内面の環境を重視して働いていることがわかります。

調査では、転職後に改善されたかまではわかりませんが、満足度で「人間関係」や「仕事内容・やりがい」の項目が高いということは、解決できたのかもしれません。しかしやはり、賃金だけは大きな改善には至らないのが現実でしょうか。

 

今の会社を辞めたい理由

「今の会社を定年までに転職したいか?」という質問もされています。

「したい」と答えた人は25.7%でした。

会社の規模で分けると次のような結果です。

1,000人以上:24.4%
300~999人:22.3%
100~299人:23.8%
 30 ~ 99人:27.1%
   5 ~ 29人:27.2%

大きければ転職希望者も少ないかと言えば、そういうわけではなく、100人から1,000人未満の中規模企業では比較的に少なく、小規模の企業では少し多めになっています。

また、業界によっても数字は変わります。

たとえば、電気・ガス・熱供給・水道業では10.9%、鉱業系12.9%、運輸業・郵便業17.2%、製造業の中でも素材関連では18.6%と、20%を切る業界があります。

一方で、医療・福祉業は35.0%、宿泊・飲食業は34.0%、小売業は32.7%、複合サービス事業は32.3%、情報通信(IT)業27.7%と平均を大きく上回る業界があるのも事実です。

医療・福祉と宿泊・飲食については、産業全体を見た場合に労働者数が圧倒的に多く、全国でも1位と2位を占めます。従事している人が多い分、転職希望者が多くなっているのが理由と考えられます。

そして、転職したい理由が何かを示しているのが次の図5です。

【図5:転職しようと思う理由(複数回答) 単位:%】

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やはり「賃金」「労働条件」を気にしていることは、若者全体に通じて言えることのようです。

「自分に合った仕事をしたい」、「自分を活かせる仕事をしたい」という理由が次に来ているのは、「最初に勤めた会社を辞めた理由」と一致するように、内面的な充実を望んでいることがわかります。

 

では、どうするのか?

全体をまとめると

・働いている若者の3人~から5人のうち1人は、転職したいと思っている

・満足度と転職理由では「賃金」をトップに、「労働時間」などが問題として挙がっている

・「人間関係」や「自分に合った仕事」など、内面的な問題も見逃せない

・「教育訓練」や「人事評価」は、間接的な影響があると考えられる

・従業員を取り巻くものが複雑にからみ合って現状を形成しているため、あるものだけを取り出して論じても仕方がない

などが言えると思います。

もちろん、会社によって個別具体的な事情や状況があって、簡単な話ではないのはよくわかります。

それぞれの会社の現実を見きわめたうえで、「では、どうするのか?」を考えていくのがトップや経営陣、管理職の仕事です。

まずは、今回ご紹介したような項目で社内の現状をデータ化してみることが、現状を認識する第一歩です。

そこから、自社に特有の問題と答えが、浮かび上がってくるのではないでしょうか。

 

離職防止の具体策と効果的な対策

参考までに、10,283の事業所を対象にした厚生労働省の調査データを示します。

まず、若手正社員の定着策を実施しているかいないかについて、70.5%が「実施している」と回答しています。

「定着のためにどのような施策を行っているか」、そして、「(その中で)最も効果のある対策はどれか」を示したものは、図6のとおりです。

【図6:若年正社員の定着のための対策(複数回答)と最も効果のある対策 単位:%】

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半数を超えるところで、「意思疎通(コミュニケーション)の向上」や「本人に合った配置」、「教育訓練」、「採用前の情報提供」が行われていることがわかります。

一方で退職理由や不満の多かった、「賃金」や「労働時間」に対する対策はやや減少することがわかります。

最も効果のある対策としては、上記の順番どおりで来ているものの、「採用前の情報提供」でやや数字が落ちます。これは、定着につながっているとなかなか感じられにくいのかもしれません。「仕事に見合った賃金」の効果が高いと10%程度が考えているのも印象的です。

一方で、「労働時間」についての対策はあまり効果を感じていないようです。

そもそも、どのように会社側(事業者側)は「社員が定着出来ている」と考えるのでしょうか?

他のデータでは、「直近1年間で若年者の離職があったかどうか」を尋ねる質問で、「あった」という回答が8割を超えています。

退職者がいるのはやむを得ないと考えつつも、会社に貢献してくれている社員を定着できていると考えるのは、普段のコミュニケーションによって社員の様子や状況を把握し、さりげないケアやフォローを行えているからかもしれません。

逆に言えば、コミュニケーションを取っていることで「効果のある」「ない」を判断できているとも考えられます。

そうなると、社員の定着の第一歩は、相互理解をつとめるために普段からコミュニケーションの機会をつくることが、自社にとって効果的な対策につながるのではないでしょうか。

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