誰が評価を行うか
業績評価の対象が定まった場合、誰が組織メンバーの評価を行うのが適切だろうか?
直属の上司
どのような組織に行っても、メンバーの評価を直属の上司が行うのは一般的である。上司は、部下の業績を管理し、責任を持つため当たり前だと考えるからかもしれない。
しかし、そもそも評価とは何で、どのように行うことが適切かをわきまえている上司は世の中に少ないように感じられる。部下が持つ特異の強みを把握し、部署や業績にどのように貢献しているか、明確にできない上司がいることも間違いない。
さらに、上司自身も今の仕事のやり方に評価システムがそぐわないと感じていたり、部署の人数によってはひとりで把握しきれない場合もあるなど、評価する側にも問題を抱えたまま伝統的なやり方で進んでいるのが現実だろう。
同 僚
一緒にはたらいている同僚(先輩や後輩を含む)は複数人いるため、上司ひとりの判断よりも平均的なデータが取れる点で優れている。
何より、上から見ているよりも、同じ現場で毎日接して、行動を共にしている方が貢献の度合いや強みなどを直接に感じやすい。つまり、情報がフィルタリングされずに伝わるのがメリットと考えられる。
一方で、同僚を評価することにためらいがあったり、相互に慣れ合う、または、敵視していたりすると、評価が偏ってしまう可能性はある。
自 分
自分自身が仕事を評価ができて、そのまま報酬に反映されるとしたらどうだろうか?
評価時に自己評価を入れる企業もあるが、それがどの程度実際の評価に反映されるか、上司との評価と一致するか、一致しない場合にどうするのかなど、実質の運用面によって自己評価は形骸化する恐れがある。
多くの場合、上司の評価と自己評価は一致しないようだ。なぜなら、仕事ができない人ほど過大に評価したり、自分こそが会社の役に立っていると思う人は自分の都合のよい評価をつけるからだ。一方で、淡々と仕事をこなし、組織に貢献している人ほど自己評価を控えめにしたり、目立たないため上司からの評価が低くなってしまうこともありえる。
評価プロセスの設計においては、自己評価を入れることも有効かもしれないが、よくよく考える必要がある。
部 下
管理職や部下を持つメンバーには、その部下から評価をさせることで客観的な評価が得られやすい。同僚と同じで、よく接するため正確かつ詳細であり、複数のデータが取れることがメリットで、好き嫌いによって偏らないかどうかは気にしなければならない。
また、部下の正直な評価が上司に伝わってしまい、報復されるなどのリスクがあると部下による評価は歪められてしまうため、無記名にするなど制度設計に注意が必要となる。ただ、部下が少ない場合は「あいつが書いたな・・・」とわかってしまう場合もあるだろう。
しかし、自分のマネジメントについて下からのフィードバックを受ける機会の少ないポジションにある人にとっては、部下からの評価は自己改善やマネジメントスタイル確立のために有効と考えられる。
「良薬は口に苦し」を受け入れるだけの器を持たなければ、無能のままそこで終わってしまうだろう。もちろん、好意的な評価を受けることで自信がついたり、前向きになれる効果もある。
360度評価(360度サーベイ)
360度評価は、評価されるメンバーと接する機会を持つすべての人から評価を受けるものである。
これまでに挙げた上司、部下、同僚だけでなく、部外で連携するメンバーや社外の取引先担当者などからもフィードバックを受け、それを評価に取り入れる。
多くの人を巻き込むため、手続きに時間がかかったり、システムへの投資が必要になる場合もある。
しかし、より多くの人が評価に加わるため、より客観的なデータが集められ、評価プロセスに全員が参加することで公平性や一体感が高まり、正確な情報が得られるというメリットもある。様々な人から評価を受けるため、評価を受ける本人も納得感が高まりやすい。
キャリブレーション(相互調整)
それでもやはり上司による評価にこだわりたいという組織には、プロセスに「キャリブレーション」と呼ばれる手法を取り入れるとよい。
キャリブレーションは、本来測り器に物をに乗せる前に数字をゼロに合わせるなどの意味に使われる。
これを業績評価の場面に用いて、評価の基準や方法を前提として揃えておき、さらに評価後も相互に調整することで、組織全体でバランスを取るものである。
ある上司がひとりの部下をえこひいきしたり、極端に悪い評価をつけた場合には、同レベルの評価者会議によって全員のデータを比較し、全体で調整していく。したがって、ある側面では直属の上司だけでなく、同レベルの上司からの判断も入る可能性はある(「○○くん、もっとがんばってると思うんだけど…なんでこんなに低いの?」)。
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