【キーワード】組織文化の誕生

組織文化の始まり

「業務開始前には掃除をする」

「顧客への対応は迅速第一」

「朝礼はとにかく元気よく」

「社歌は肩を組んで歌う」

組織に入ったとき、既存メンバーは習慣や伝統、物事の進め方を細部にわたって、言われるまでもなく行っている。

なぜそのようなやり方をしているのか?

それは、これまでに行われてきた方法のうち、成功の度合いが高いものを選ばれている。

そして、どれほど成功したかどうかは、ある人物によって決められる。すなわち、創業者である。

創業者、あるいは、実質的な力を持つ人物が決めたルールや行事、ほめたやり方、評価したことがら、逆に、怒りを買ったことなどは、組織メンバーの考え方や行動に大きな影響を与える。

本来的に、創業者は組織がどうなるべきかというビジョンを持ち、物事のやり方について前例に縛られることがない。創業者の発言や行動、決断そのものが前例となる。

規模が小さく新しい組織であれば、メンバーの全員に創業者の価値観やビジョンが強い影響力を持って、それが文化として定着する。

創業者はオリジナルな考えを持ち、その考えをどう実施するかについて特定の考えを持っている。そのような中で、最初のメンバーたちが創業者とのやり取りの中で経験的に学び、繰り返し行われて維持されるものが、組織文化としての始まりである。

たとえば、国際的な自動車メーカーの本田技研工業株式会社は、創業者の本田宗一郎の価値観や考え方がいまも残っているとされる。このような有名企業に限らず、様々な企業を見渡せば、創業者が源となる文化が諸所に見て取れる。

 

組織文化の誕生プロセス

最初の組織文化は創業者の理念や哲学から生まれ、次に採用の基準(どんな人物を組織メンバーに加えるか)に強く影響を与える。

そして、現在の経営陣は、受け入れられる行動や受け入れられない行動について、特定の「空気」をつくることになる。

もちろん、創業者から経営を受け継いだ次のトップも、組織文化に影響を与えるが、先代から続いたものをいかに取捨選択し、新たな文化を生み出すかについては大きな課題となる。

組織メンバーがどのように組織文化を受け入れていくは、次のことに影響される。

  1.  採用プロセスで、組織の価値観と新メンバーの価値観をマッチさせることがどれくらい成功するか
  2.  経営陣がどのような社会化(文化への適応を促すこと)の方法を好むか

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強い文化を浸透させ、組織メンバーをコアとなる価値観のもとに動かしていき、マネジメントしようと思うためには、組織文化とマッチする人物の採用から始めることになる。

トップから直接影響を受けやすい経営陣のあり方と、メンバーを組織文化になじませる社会化の仕組みについて、そのプロセスを客観的に観察・分析することで、トップや経営陣は組織文化がどのようなメカニズムとして機能しているか、理解することができる。

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【コラム】組織文化が変化の邪魔をする

組織文化はいったん定着すると、組織が機能的に活動することを促し、個人にとっても考え方や行動の指針になります。

基盤となる組織文化に沿って採用基準や手法を定め、人物の見きわめを行うことで、採用問題の終着点である「組織に合う・合わない」の問題をクリアでき、入社後の離職を防ぎ、長く働いてもらえることにもつながります。

また、新卒の若手や中途採用者の教育においても、組織文化に慣れさせることを優先的に行い、求められる行動や考え方を教えることは、新メンバーが組織になじむことを促進します。

業績評価についても、組織文化のコアとなる価値観にもとづいて制度設計され、実際の評価も公平に行われることで、メンバーの満足度や納得感は高まり、定着につながると考えられます。

 

組織文化のデメリット

一方で、組織文化が生まれてひとり歩きするようになると、その存在が消えることはまれであり、良くも悪くも非常に大きな存在感を持つことは事実です。

企業によっては、その組織文化ゆえに社外から評価がなされ、モデルケースとして取り上げられるパターンもあります。

しかし、そのような組織文化が、独特の存在感ゆえに変化の邪魔をする場合があります。

次のコメントは、ある日本の大手企業(A社)が不正を行って問題視された際に、第三者委員会の報告等に書かれたものの引用です(一部改変)。

  • A社は、100年を超える歴史があり、コーポレートガバナンス(企業統治)に関してはオール5の優等生のようだった
  • しかし、A社のかつては称賛された企業文化が、不正問題の原因となった
  • A社の不祥事の根底に、企業文化が根本的な問題としてある
  • A社には「上司の意向に逆らうことができない」企業文化が存在した
  • 「反射的な従順」と「権威に異を唱えることに前向きでないこと」が不正の根本原因にあった

誰もがうらやむような一流大手企業の実態の一面が、組織文化という切り口からわかりやすく示されています。

いかに優秀な社員であっても、トップダウン型の指示・命令に逆らうことは許されず、言われたことを行うことのみが求められるという文化が、いつの間にか組織の根底に息づいていたようです。

そのような母なる組織文化のもとで育てば、優秀なメンバーとしてやがてマネジメント層に入ったとしても、やはり同じようにトップダウン型で主導する(もちろん、それがどの程度の割合か、というところが組織文化の強さの基準ですので、全員が全員ではないでしょう)。

そして、気づかないままに、いや、無意識のうちに変えないといけないとわかりつつも、同じことを繰り返してしまう。組織文化から外れれば、評価はおろか、自分の地位も危ないとなれば従わざるをえない。

組織文化からの逸脱は、すなわち、「サバイバルの終了=死」を意味するのです。

これが組織文化の生み出す構造(システム)であり、組織で生きる以上、もっとも注意しなければなりません。

 

邪魔な組織文化

しかし、前提として組織文化は中立的に考える必要があります。

つまり、良し悪しの話ではなく、単純に存在すると言っているにすぎないわけです。

最初に見たように、組織文化の機能は組織にとってもメンバーにとっても価値があり、組織への関与の度合いを高め、メンバーの行動の一貫性を高めます。

これは明らかに組織にとって有益となるでしょう。

メンバーの立場から見ても、組織文化があいまいさ(仕事をどのように進めるべきか、どう判断すべきかの幅や何を重要とすべきかの基準)を減らしてくれるのでメリットがあります。

ある意味、上司の言うことに従っていればいい、というのもひとつの基準です。

しかし、もちろん、組織文化が悪影響を与える側面も忘れてはならず、特に、カルト的に強い文化ほど問題になります。

強い組織文化によって共有される価値と、組織が時代に対応してより効果的な活動をしようと考えるときの価値が一致しないとき、文化は邪魔な存在となります。

これは、環境がダイナミックに変化しているときに起きる可能性があります。環境が急速に変化しつつあるときに、固定的な組織文化が適切でなくなっているかもしれないからです。

安定した環境下では、メンバーの行動の一貫性が組織にとって有益となりますが、逆に、文化が組織にとって重荷となり、環境変化に対応する能力を損なうおそれもあります。

 

組織文化の客観視が必要

組織文化は、その存在を自ら見せようとはしません。

会議や打ち合わせの場で多くの人が感じる雰囲気、上下関係でのやり取りに潜む暗黙の前提、社内・顧客への対応の方針(ポリシー)、望まれる言動、これを言えば最後という意見…

組織における人と人との関係の裏でひそかに力学を働かせているメカニズムこそが組織文化であり、それは注意深く見なければなりません。

基本的に、階層の下位メンバーほど組織文化を所与のものとして受け入れます(そうでないと組織でサバイバルできず、早期に離職する)。

そして、上位に近づくほどに組織文化に対して強い影響力を持っています。

逆に言えば、組織文化を客観視し、変えることができるとすればトップやマネジメント層の方にこそ大きな可能性があります。

変化への対応が迫られているとき、組織文化の見きわめと大胆な変革が求められ、それを実行できるのは経営層なのです。

問題を生み出している原因が、問題を解決しようとすることほど難しいことはありません。経営層がこれ成功させるには、自覚と覚悟、そして果断と行動が求められると考えられます。

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【キーワード】組織文化の機能

組織文化は何のためにあるのか

A社で活躍している人が、同業他社のB社でも同じように活躍できるだろうか。

業界全体の共通した雰囲気はあるものの、それぞれの企業には独自の組織文化があり、文化によって「その会社らしさ」が表れる。

組織ではたらく個人にとって、はたらく先との「相性」は重要な問題である。

自律的に仕事ができる人が、細かいことにまで管理しなければ気が済まないような、マイクロマネジメント型の上司やトップがいる企業で活躍できるだろうか。そのような人は、プロセスにあまり口を出さずに比較的に結果重視であるような組織文化をもつ企業の方が、水を得た魚のようにはたらけるのかもしれない。

つまり、組織文化とは、組織ではたらく人との相性を図るひとつの基準であると言える。

待遇がどれほど良かったとしても、評価が公平であったとしても、仕事の進め方や評価基準、顧客への姿勢、マネジメントのスタイルについて価値観や考え方が合わなければ、はたらくメンバーは離職してしまう可能性がある。

そのような組織文化の機能は、次の5つにまとめられる。

1. 自他を区別する

A社にはA社の、B社にはB社の独自の文化がある。同じ人がいないように、同じ会社などない。

電話の取り方、あいさつの仕方など細かいところをひとつ取ってみても、異なる場合がある。その根幹となるのが組織文化であり、組織文化こそが自社を自社たらしめているものである。

 

2. 個人のアイデンティティ(帰属意識)を育む

株式の所有とは別にして、メンバーが自分が所属する組織を「自分の組織だ」と思える場面がある。このようなとき、メンバーは組織に対してアイデンティティを感じている。

かたや、「私は○○社の社員である」ということに誇りやプライドを持つ人がいる。

社員が自分と会社をほとんど同一化させてしまい、「会社の考え=自分の考え」と錯覚してしまう人もいる。このような強いアイデンティティを生むのも、組織文化の機能である。

逆に、組織文化が弱い会社ほど、メンバーはアイデンティティを持ちにくくなる。

 

3. 個人の枠を超えたコミットメントを生む

優れた組織文化の下では、メンバーが個人の興味や関心の範囲を超えて会社の目的やゴールを目指すことに貢献しようとする。

自分だけのことを考えるのではなく、所属する部署や組織そのものへの関与を深めることを促すのである。

 

4. 組織システムを安定化させる

ここでいうシステムはIT技術によるシステムではなく、組織メンバーがどのような言動を行うかについての基準を指す。

細かいことを言わずとも、メンバーはその基準にしたがって自律的に活動を行い、組織の一致団結に寄与する。

 

5. 組織内のゲーム・ルールを定める

就業規則やマニュアルとは異なり、組織文化はルールを定めている。いわば、組織内でいかに生きるかの「サバイバル・ゲーム」のルールなのである。

どのような組織でも、明確には言われていないが、コアとなる大前提や「これは知っておけ」という類の知識、「××はしてはいけない」という暗黙のルールが存在する。

そのルールに従ってメンバーは毎日のように行動や発言をしている。

新しく組織に入った新人にとっては、そのルールを学び、繰り返し実践できるようになるまでは半人前でしかない。それは高い地位であろうが、現場のスタッフであろうが、関係はない。

その組織で認められ、評価を受け、昇進・昇給を狙うためにはそのルールにしたがうことが大前提であり、ルールから外れることは「サバイバル・ゲーム」からの脱落を意味する。

誰かがつくった組織の中ではたらき、活躍しようと思うならば、組織文化への理解を深め、自社の文化をメタの観点から観察、分析し、自らの言動に活かす必要がある。

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【キーワード】強い組織文化

強い組織文化

組織文化には強弱の程度がある。

その強弱は、次の2つのポイントによって決まる。

①文化の影響力
組織が持つコアとなる価値観が、ひとつの組織文化としてメンバーに対してどの程度の影響力を持っているか

②文化の共有範囲
コアとなる価値観を受け入れ、共有しているメンバーの数

たとえば、ある企業が「顧客への情報開示は積極的に行い、オープンにすることが望ましい」という価値観を掲げているとする。

上記の2つのポイントを基準に考えると

①文化の影響力
従業員が、実際に顧客に対して良い・悪い情報にかかわらずどの程度の頻度で顧客に対してオープンな行動を取っているか

②文化の共有範囲
オープンな行動をしている従業員がどれくらいの人数いるか

このように、行動の頻度と人数に比例して組織文化の強弱は測ることができ、組織マネジメントにおいて経営陣が掲げている価値観が有効かどうかを把握する手がかりとなる。

 

強い文化は離職を防ぐ

組織が強い文化を持つと、メンバーが行動や思考の拠りどころとする基盤が築かれることになり、そうした基盤の上にメンバーは一致団結し、組織に対して忠誠心を示したり、組織への関与を高めたりする。

明確で広く共有されている組織文化に従って行動することで、メンバーは確実に成果を挙げ、賞賛や評価を受けられる可能性が高くなる。

成果が挙がり、生産性が高まって「今日はいい仕事ができた」と思えると、職務への満足度が上がる。さらに周囲からの信頼や評価が高まると仕事がおもしろく感じられ、離職率は下がると考えられる。そして、組織文化に対するコミットメントがさらに強まり、好循環を生む。

もちろん、職場環境や待遇面の影響もあるだろうが、組織文化の強さという側面からメンバーの忠誠心や会社愛を見ることも可能である。

 

弱い文化

逆に、組織において拠りどころとなる価値観が、あいまいであったり、不明確であったりすると組織文化は弱くなる。

たとえば、経営理念として「顧客のために」という言葉を掲げていても、実際は社長や上役の顔色をうかがって社内にベクトルを向けなければならない雰囲気があれば、一貫性を欠いており、もはや経営理念が立派に書かれたものは紙くず以下の存在でしかない。

弱い文化が組織内にはびこると、離職が起こる可能性が高くなる。

なぜなら、掲げている理念や繰り返される言葉に対して、現実に求められるものがずれていれば、メンバーは行動の指針を失い、評価も不明確になってモチベーションが下がるからである。

強い文化は、ある種宗教的に強い存在力と影響力を持ち、メンバーの行動・思考様式を規定している。そのため、変化に対しては抵抗を示すが、弱い文化であれば変革や改革のチャンスが潜んでいる(上役の顔色を伺って「ノー」と言わないことが良い価値観とされ、それが暗黙のうちに広く共有されていれば、それはそれでひとつの強い文化となっており、変化は難しい)。

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【キーワード】組織のサブカルチャー

組織内のサブカルチャー

組織文化はメンバーの大部分が共通して認める優位の文化のことを指すが、一方で、組織内には多くのサブカルチャー(下位文化)が存在する。

全体的な観点から、組織に固有の特徴と考えられるものが組織文化であるのに対して、担当部門や地理的条件によって決められる特徴がサブカルチャーである。

会社としての優位な文化を保ちながらも、営業、管理、製造、人事といったそれぞれの部門や、本社、○○支店、△△事業所などの地域的な枠組みによる下位の文化によっても、メンバーは影響を受ける。

メンバーや部門が共通して置かれている状況、直面している問題、経験などが反映されて形成されることになる。

【図:組織文化とサブカルチャーの関係図】

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サブカルチャーには部門トップの色が出る

部門の性質や地理的条件に影響を受けながらも、その部門や拠点の、責任者や実質の力を持つリーダーもサブカルチャーに対して強い影響力を持つ。

銀行の支店では、同じ地域にありながらもまったく異なる雰囲気や行動パターンを示す場合がある。支店長の人格的な器やリーダーシップスタイルによって、社員の行動するルールが変わるからである。

また、部門トップが実質の力を持たない場合は、キーパーソンとなる実務トップのやり方がサブカルチャーを形成する。

したがって、部門の責任者になる人は、その組織がこれまでどのような文化を持っており、メンバーの考え方や行動にどう影響を与えていたかを観察し、分析を行うことで独自色を打ち出す方針が見えてくるだろう。

もっともやってはいけないことは、長年形成された組織文化をまったく尊重せずに、一気に何もかも変えてしまうことかもしれない。

もちろん、組織が面している状況にもよるが、「変えるべきところ」と「変えてはいけないところ」を見きわめる力がリーダーには求められる。

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