【キーワード】生産的コンフリクト

生産的なコンフリクトの意味

議論や会話には、生産的なものとそうでないものがある。これと同じように、コンフリクトにも良いものとそうでないものがあり、生産的なコンフリクトは生産的な結果につながる可能性が高い。

「建設的な議論をもっとすべき」という指摘は、堂々巡りの議論や落としどころが始めから決まっている予定調和の会議、何のために集まっているかわからない集団の話し合いに当てはまる。

つまり、始めから「コンフリクト=対立」は想定していないのである。

コンフリクトの定義で述べたように、個人レベルでの人間関係のあつれきや部署間の争いを指す「対人コンフリクト」については、ほとんどの場合が非生産的な結果にしかつながらない。

しかし、業務の進め方や目標、意見そのものに焦点を当ててグループやチーム内で議論を行う「業務コンフリクト」は、生産的な結果につながる可能性が高く、経営管理や仕事を進めるうえで業務コンフリクトを起こすことは奨励される。

 

生産的なコンフリクトはなぜ必要か

なぜ、生産的とされる業務コンフリクトは必要なのだろうか。

業務コンフリクトは、仕事の進め方(プロセス)や責任や役割の割り振り、目標設定といった、個人の性格や好き嫌いとは離れた客観的な物事を議論の対象にする。そのような議論や話し合いは、グループやチームを改善に導き、組織のパフォーマンスを高めることになる。

例えば、あるプロジェクトにおいて、プロジェクトリーダーがメンバーの中に進捗が遅いローパフォーマー(低業績者)がいるからと言って、あからさまな人格攻撃や陰で非難をしたりすれば、対人コンフリクトが発生してしまい、プロジェクトチームのパフォーマンスは上がるどころかかえって下がってしまうのは簡単に想像できる。

なぜなら、そのメンバーはモチベーションが下がるだけであるし、リーダーの行動パターンや癖を知った周りのメンバーは、リーダーとは積極的な関わり合いを避けるか、一緒になってメンバーを攻撃する結果となり、もはやチームの態はなさなくなるのが理由である。

このような非生産的コンフリクトは、組織パフォーマンスをプラスにするとは考えにくい。

逆に、プロジェクトリーダーまたはメンバーが、ローパフォーマーの業務プロセスや目標について客観的に分析、方向づけを行い、焦点を個人そのものから別の客体へと移すことは、生産的コンフリクトへとつながる。率直な指摘やアドバイスをされるメンバーは、若干の緊張や不安を感じるかもしれないが、自らが進むべき道を示された場合に歩きだす人の方が多い。

もし時間の経過を経ても改善が見込めない場合は、メンバーの強みや特性と役割がミスマッチしているか、求められる業務レベルに本人の能力やスキルに大きなギャップがあることが考えられるため、業務設計やチーム構成そのものを考え直す必要があるだろう。

生産的コンフリクトは理想論に見えるかもしれないが、そうかと言って、不要な対人コンフリクトをわざわざ引き起こす必要もない。そんなことをすれば、かえって起こした本人の評価が下がるだけであるし、長期的に見ればそのような言動を行う組織メンバーは何らかの形で行き詰まりを見せるだろう。

生産的コンフリクトが組織に生じるかどうかは、組織全体、またはグループやチームを率いる責任者やリーダーの器にかかっていると言える。

 

生産的コンフリクトがもたらす5つのもの

それでは、生産的コンフリクトは具体的に組織に何をもたらし、パフォーマンスを向上させるのだろうか。

生産的コンフリクトは、次の5つのものを組織にもたらすとされる。

① 意思決定の質を向上させる

組織の重要な意思決定において、あらゆる意見、特に異質の意見や少数派の意見が比較検討されることで、意思決定の質が向上する可能性がある。

通常、対立する意見は、会議などでは意図的に避けられる傾向にある。「誰が言ったかを気にする」、「社長や上司に対立意見は述べられない」という前提や、そもそも意見を述べることが求められていないという場合があるからである。

したがって、当然の前提として「建設的な対立意見」や「異質または少数意見」を提示することが積極的に求められている環境が用意されていなければならない。

② 創造性や革新性を刺激する

コンフリクトはグループシンク(集団浅慮)への対抗手段で、根拠の弱い仮定にもとづいた決定を安易に承認したり、重要な選択肢を十分に検討しなかったり、といった集団の弱さを許さない。

したがって、新しい意見や、検討されていない選択肢の候補が現れ、組織に刺激を与えることとなる。

③ 集団メンバー間の関心や興味を促す

少数派の意見や異なるアイデアが出されることで、そのことを考えもしなかったメンバーにとっては、新しい発見や興味・関心の対象が生まれることとなり、「他人事」の空気が薄くなり、当事者意識を育むことになる。

④ 問題を訴え、緊張を緩和する手段を提供する

組織にとって重要な問題が話し合わなければ、会議や打ち合わせの意味がない。

メンバーの多くが関心を寄せている問題について提起され、全員が議論に参加することで質の高い意思決定がなされ、問題の解決へとつながり組織の緊張がやわらぐ結果へとつながる。

⑤ 自己評価と改善が行われる環境を育む

生産的コンフリクトは現状に挑戦し、それによって新しいアイデアの創造を促し、集団の目標や活動の再評価を促進し、集団が変化に対応できる確率を高める。

この仕組みが組織に備わっていれば、メンバーは言われなくても自己の状況を客観的に把握し、改善やパフォーマンス向上の道を探り始める。

対立や多様性が許容されなければ、こういった自律的な機能は生まれない。

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