【コラム】組織文化が変化の邪魔をする

組織文化はいったん定着すると、組織が機能的に活動することを促し、個人にとっても考え方や行動の指針になります。

基盤となる組織文化に沿って採用基準や手法を定め、人物の見きわめを行うことで、採用問題の終着点である「組織に合う・合わない」の問題をクリアでき、入社後の離職を防ぎ、長く働いてもらえることにもつながります。

また、新卒の若手や中途採用者の教育においても、組織文化に慣れさせることを優先的に行い、求められる行動や考え方を教えることは、新メンバーが組織になじむことを促進します。

業績評価についても、組織文化のコアとなる価値観にもとづいて制度設計され、実際の評価も公平に行われることで、メンバーの満足度や納得感は高まり、定着につながると考えられます。

 

組織文化のデメリット

一方で、組織文化が生まれてひとり歩きするようになると、その存在が消えることはまれであり、良くも悪くも非常に大きな存在感を持つことは事実です。

企業によっては、その組織文化ゆえに社外から評価がなされ、モデルケースとして取り上げられるパターンもあります。

しかし、そのような組織文化が、独特の存在感ゆえに変化の邪魔をする場合があります。

次のコメントは、ある日本の大手企業(A社)が不正を行って問題視された際に、第三者委員会の報告等に書かれたものの引用です(一部改変)。

  • A社は、100年を超える歴史があり、コーポレートガバナンス(企業統治)に関してはオール5の優等生のようだった
  • しかし、A社のかつては称賛された企業文化が、不正問題の原因となった
  • A社の不祥事の根底に、企業文化が根本的な問題としてある
  • A社には「上司の意向に逆らうことができない」企業文化が存在した
  • 「反射的な従順」と「権威に異を唱えることに前向きでないこと」が不正の根本原因にあった

誰もがうらやむような一流大手企業の実態の一面が、組織文化という切り口からわかりやすく示されています。

いかに優秀な社員であっても、トップダウン型の指示・命令に逆らうことは許されず、言われたことを行うことのみが求められるという文化が、いつの間にか組織の根底に息づいていたようです。

そのような母なる組織文化のもとで育てば、優秀なメンバーとしてやがてマネジメント層に入ったとしても、やはり同じようにトップダウン型で主導する(もちろん、それがどの程度の割合か、というところが組織文化の強さの基準ですので、全員が全員ではないでしょう)。

そして、気づかないままに、いや、無意識のうちに変えないといけないとわかりつつも、同じことを繰り返してしまう。組織文化から外れれば、評価はおろか、自分の地位も危ないとなれば従わざるをえない。

組織文化からの逸脱は、すなわち、「サバイバルの終了=死」を意味するのです。

これが組織文化の生み出す構造(システム)であり、組織で生きる以上、もっとも注意しなければなりません。

 

邪魔な組織文化

しかし、前提として組織文化は中立的に考える必要があります。

つまり、良し悪しの話ではなく、単純に存在すると言っているにすぎないわけです。

最初に見たように、組織文化の機能は組織にとってもメンバーにとっても価値があり、組織への関与の度合いを高め、メンバーの行動の一貫性を高めます。

これは明らかに組織にとって有益となるでしょう。

メンバーの立場から見ても、組織文化があいまいさ(仕事をどのように進めるべきか、どう判断すべきかの幅や何を重要とすべきかの基準)を減らしてくれるのでメリットがあります。

ある意味、上司の言うことに従っていればいい、というのもひとつの基準です。

しかし、もちろん、組織文化が悪影響を与える側面も忘れてはならず、特に、カルト的に強い文化ほど問題になります。

強い組織文化によって共有される価値と、組織が時代に対応してより効果的な活動をしようと考えるときの価値が一致しないとき、文化は邪魔な存在となります。

これは、環境がダイナミックに変化しているときに起きる可能性があります。環境が急速に変化しつつあるときに、固定的な組織文化が適切でなくなっているかもしれないからです。

安定した環境下では、メンバーの行動の一貫性が組織にとって有益となりますが、逆に、文化が組織にとって重荷となり、環境変化に対応する能力を損なうおそれもあります。

 

組織文化の客観視が必要

組織文化は、その存在を自ら見せようとはしません。

会議や打ち合わせの場で多くの人が感じる雰囲気、上下関係でのやり取りに潜む暗黙の前提、社内・顧客への対応の方針(ポリシー)、望まれる言動、これを言えば最後という意見…

組織における人と人との関係の裏でひそかに力学を働かせているメカニズムこそが組織文化であり、それは注意深く見なければなりません。

基本的に、階層の下位メンバーほど組織文化を所与のものとして受け入れます(そうでないと組織でサバイバルできず、早期に離職する)。

そして、上位に近づくほどに組織文化に対して強い影響力を持っています。

逆に言えば、組織文化を客観視し、変えることができるとすればトップやマネジメント層の方にこそ大きな可能性があります。

変化への対応が迫られているとき、組織文化の見きわめと大胆な変革が求められ、それを実行できるのは経営層なのです。

問題を生み出している原因が、問題を解決しようとすることほど難しいことはありません。経営層がこれ成功させるには、自覚と覚悟、そして果断と行動が求められると考えられます。

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