キャリアのリスクとアプローチ
かつての日本では、リスクを好まない大多数の人々によって会社が支えられ、会社による恩恵を受けることで個人は自分の生活や家族を支えていた。
これは入社から定年まで会社が応え続けるという前提に裏打ちされて成り立っていたものである。そのような会社では、個人はその組織において有効な知識や技能を身につけ、それに磨きをかければよかった。
しかし、その組織で磨かれたスキルは必ずしも他の企業で求められるものとは限らず、かつて企業と個人の関係を支えていた前提が、ほとんどの企業で崩れた現在の状況では、むしろ特定の組織内でのみ有用なスキルを身につけて組織外で通用するスキルや知識の習得に熱心でないまま働き続けることが、個人の将来キャリア上大きなリスクを伴うことになる。
この状況について、会社の責任にすることも容易だが、それを叫んだところで何も変わらない。前向きな視点に変えて、様々な選択肢の中から個人が自らのキャリアを選び取って、自分の生き方に責任を持つ時代になったと考える方がより生産的だろう。
このような状況を打破する裏技はない。地味ではあるが、組織と個人ができる具体的なアプローチを以下に、個人と組織の別で掲げる。
個 人 |
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1. 己を知る 自分の長所と短所を理解する。PRできる能力・スキルは何かを正直に明らかにする。一人で客観的に行うのは難しいため、組織外の人にキャリア相談すると進みやすい。 |
2. 自分の評判を把握する 自慢にならないように、自分の業績や功績を組織内外の人にPRしてみる。できればフィードバックをもらう。 |
3. 人脈を構築・維持する 地元、専門職、交流会、セミナーなど組織外での人脈づくりに努めること。 特に、「社外」でのコミュニティを意識することが重要。 |
4. 最新の技術を身につける 需要の高い特定のスキルを身につける。他の組織では即戦力とならないような、ある組織でのみ通用するスキルの習得は避ける。 |
5. スペシャリストとしての能力とゼネラリストとしての能力をバランスよく身につける 専門分野だけでなく、変化する職場環境に多面的に対応できるように他分野の能力も養う。 |
6. 自分の功績を記録する やりがいを高め、自分の能力を客観的に証明できる仕事や業績を記録しておく。定期的に仕事の棚卸をするとよい。 |
7. 選択肢を広げておく 最善を望み、最悪に備える。いつ何が起きても大丈夫なようにすること。 「会社がつぶれても生きていける」状態をつくりだす。 |
組 織 |
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1. 組織の目標や将来的な戦略を明確に伝える メンバーが組織の方向性を理解すれば、そうした将来像に合わせて個人的な計画を策定することができる。 |
2. 成長機会をつくり出す 社員に、新しく興味深く、かつ専門的にやりがいのある業務経験の機会を提供すること。 |
3. 財政支援を提供する 最新のスキルや知識を身につけるための支援策として、奨学金制度または支援金制度を設ける。 |
4. メンバーが学ぶ時間をつくり出す 有給で職場外研修に参加させる。また、仕事の負荷を軽減させ、従業員が新しいスキル、能力、知識を身につけるための時間的余裕を持てるよう配慮する。 |
5. キャリアセンター等の支援の場をつくる 社員のキャリア上、役に立つ最新の情報を提供したり、相談に応じてキャリア開発を支援したり、定期的なセミナーを実施するような交流の場をつくる。 |
基本的に、組織ができることはメンバーを自立させ、継続的にスキルや知識の習得を促すことで社員が自分の市場価値を維持する手助けをすることである。
一方で、個人ができることは自分を個人事業主のように考え、自分自身でキャリアを管理し、伸ばしていくという責任を持たなければならない。
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