組織におけるキャリアの現実
組織の中でキャリアを順調に発達させ、望み通りなし遂げられるケースは少ない。
組織の内部には、個人のキャリアに対する障害、ぶつかるべき壁など様々な要素があるからだ。たとえば次のようなものが挙げられる。
1. ポスト
昇進できるポストに限りがあったり、名ばかりの管理職名がつくられたりするなど、出世欲のあるメンバーの望みがかなえられにくいパターンがある。
また、社内の年齢構成のいびつさによって、年功序列の場合は管理職候補が多くなってしまい滞留するパターンや、ある世代だけが少ないためにマネジメントを担える層が少なく、人的リソース不足に陥り、若手が育たないまま組織の将来を担うこともある。
いずれの場合でも、ベテラン、若手をとわずキャリアの行方について暗澹たるものを持たざるをえない。
もちろん、すべての人が出世をしたいと思っているわけではない。近年では、仕事とプライベートのバランスを第一に考える風潮が若者を中心に出てきたり、肩書きも階層もない「ホラクラシー」と呼ばれるフラットかつ自由な組織風土をつくる試みも見られる。
2.報酬制度
給与や賞与といった、組織内の資源をどのように配分するかというテーマは永遠の課題のように思える。
業界、業種によっても相場があり、会社の規模や業績によって給与の限界が生じる。もらえる金銭の多寡で自分の価値を決める人もいれば、私生活を充実させるために給与を考える人もいる。
そのようなタイプにとっては、いくら理念だやりがいだときれいごとを言ったとしても、報酬制度の中身がキャリアイメージに良くも悪くも影響を与えているのが、組織の現実である。
3.同僚・先輩・上司のキャリア
メンバーはさまざまな情報を上司や先輩の現実の姿から得る。特に、学歴やスキル、年齢などの要素から自らの将来的なキャリアイメージを形づくり、期待を持つ人もいれば、絶望する人もいる。
たとえば、同じ年の入社でメンバーを眺めた時に、昇進や昇給が速いかどうかは大きな要素である。
また、若手や新参者にとって、模範となるメンバーはどれくらいいるだろうか。組織の質とレベルは、メンバー層の厚さによって決まると考えられる。採用や組織づくりにおいては、新しいメンバーよりも、古くからいるメンバーに余計に注意を払う必要がある。
4.学習や成長を促すかどうか、昇進への考え方などキャリアに対する組織文化や制度
組織がメンバーのキャリアに対する積極的な意識を持ち、学習や成長を促したり支援したりする文化と制度があるかどうかは、メンバーのキャリアにとって大きな意味を持つ。
そもそも「自分に成長が求められている」などと思ったこともない人も世の中にはいる。さらに、レベルアップが暗に求められているのに「自分は学習する必要などなく、今のままぶら下がっていればよい」と考えている人もいる。それらは組織と個人それぞれのキャリアに対する意識に応じて異なる。
5.個人に与えられた役割・専門性
○○会社に勤めるAさんが、他の企業でも中途採用として通用するだろうか?
その問いに答えるには、Aさんがこれまでどのような役割を与えられ、何の専門性や知識、スキルを持ち合わせていて、どれほどの業績を残してきたかによるだろう。
もし、Aさんが○○会社でのみ通用する知識や技能を持ち合わせている場合、どれほどすばらしい成果があったとしても他では採用されない可能性が高い。
そのような、ある一定の条件下でしか発揮できない知識・技能を企業的特殊能力と呼ぶ。組織メンバーにとって、一般に応用できない経験ばかりを積み重ねる状況は、伸るか反るかの勝負と感じるかもしれない。
個人はこのような組織内部の要素、そして組織が置かれている業界の状況、同業界の人々、そして個人的な欲求などあらゆるものが相互に影響し、キャリアに対する漠然としたイメージを持つ。
しかし、それらも時代が変わり年齢を重ねることでイメージは変化するのであり、定期的に確認する場が必要となるだろう。
いずれにせよ、組織においては「キャリアの現実」が存在する。年功序列、終身雇用制のもとで基盤を築き上げてきた日本の社会が、新しいキャリアのあり方を模索し、これまでにない道を開拓することは容易ではない。
実際問題として、給与が高く待遇が厚い大手企業においては、多くの場合、旧来のキャリアイメージが根強く残っており、優秀な人材が集まってもその中でしかキャリアの可能性が示されないからである。
また、中小零細企業においては、IT活用の推進が遅れていたり、キャリアに対する理解や情報が頭にない経営者も多く、大きな課題であると考えられる。
今後の少子高齢化、一方で、ワークライフバランスが求められる社会において、日本人の望むべくキャリアのあり方は変化を迫られざるをえない。
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