エンプロイヤー・ブランディングについて

経緯

これまで数多くの大学新卒採用イベントに参加して、ふと思ったことがある。

学生が多く集まる企業と、そうでない企業。

名前を聞かない企業や、斜陽産業の企業に立ち見が出るほど学生が集まり、業界で知られる優良企業には学生が見向きもしない。この違いは一体何だろうか?

実情は大量採用・大量離職の企業に学生が多く集まって内定をもらっては、入社後に辞めて若者が社会へと離散する。不正・不祥事で世間を騒がせた大企業ブースにもやはり学生は訪れ、入社して企業戦士へと変貌していき、コアな部分での組織文化が変わることはなく、それに耐えられる社員が残り、出世し、やがて歴史は繰り返される。

一方で、企業における採用担当者のほとんどが「採用」のことしか考えていない。しかし、それにはそうせざるを得ない構造的な理由があると思う。

多くの場合、採用目標は一方的に設定され、担当者は人数確保のために奔走する。優秀な人材の発見と「御社が第一志望です」の言葉にぬか喜びし、寝耳に水の内定辞退が相次ぎ、人間への不信感を募らせつつ、追加の採用活動へと駆り出される。そもそも採用の人手が足りず、他の業務も山積みになっているにもかかわらず…

そして、即レスしない学生とのやり取りに時間とエネルギーを取られ(本当にこの学生は入社して大丈夫か? という思いはよそにして)、「こんなに頑張って働いているのに」、何の苦労もわからない上層部からは一方的なプレッシャーと意見が繰り出される。そうして気付いた時には、また次年度の採用活動が目前に控えていて、十分な準備も出来ないまま同じことを繰り返す。挙句の果てに、「なんでこんな人を採用したんだ?」と現場からクレームを受ける始末。

では、どうすればいいのか?

企業にとって「採用」は重要であるとは誰もが思っていながら、大局的に「採用とは何であるか?」について顧みず、効果が本当にあるかどうかわからない施策や提案に金を注ぎ込む。あるいは、必要だと思っていながらも、上層部の理解や予算確保が得られずに十分な対策ができない中小企業。

企業にとって真に重要なことは何か?

それは、「雇用」(「採用」という一時点ではない)を通じて、働く人と、役員、企業、顧客や株主など企業を取り巻くステークホルダー、そして社会が、元気で、前向きになれることである。そのためには、企業で働く人が職務満足度を上げ、モチベーションを持って仕事に取り組み、顧客にも喜ばれ、生産性が高まり、株主や社会に利益を還元することが求められる。しかし、多くの企業ではそうなっていない。「働き方改革」とは言いながら、「雇用」と「採用」をバラバラに考え、言っていることとやっていることに整合性がない。

多くの働く人と、企業の幸せのために、何かを、変える必要があるこれは、もはや人事だけでは解決できない時代に来ているのではないか?

私は、これまでの経験と現場で覚えた違和感から、これまでにない上位の概念が必要であると強く感じた。そうして数々の文献に当たり、一つの答えとして出会ったのが「エンプロイヤー・ブランディング(雇用者としてのブランディング)」である。

以下、弊社の独自の解釈により「エンプロイヤー・ブランディング」について体系的な説明を試みたい。

エンプロイヤー・ブランディング(Employer Branding)の定義

エンプロイヤー・ブランディング(雇用者としてのブランディング)とは、企業が雇用者としての立ち位置から、従業員や求職者、顧客、株主等のステークホルダーに対して、「働く場の価値」を明確かつ具体的に提示し、コーポレート・ブランドや商品ブランドと整合性のある、統合的な企業イメージを構築することである。

エンプロイヤー・ブランディングの効果

エンプロイヤー・ブランディングは、社内外の双方に対して「働く価値のある職場」として企業イメージを示し、「求職者の誘引 ➨ 採用・入社 ➨ 定着 ➨キャリア発達 ➨ 退職」という一連のサイクルに前向きな効果をもたらす。「求職者の誘引」という一局面だけに特化したブランディングではないことに、注意が必要である。

エンプロイヤー・ブランディングの位置づけ

エンプロイヤー・ブランディングは、経営戦略上、最上位に位置付けられ、他の組織戦略や営業戦略、商品戦略等の重要なレベルと同等、あるいはそれ以上のレベルで考えられなければならない。

企業が求める優秀な人材の確保は、競合を含む他社との熾烈な競争であり、経営上の最重要課題として認識されるべきで、エンプロイヤー・ブランディングは他社との差異化に大きく貢献すると考えられる。

エンプロイヤー・ブランディングの基本的な考え方

エンプロイヤー・ブランディングには「全体アプローチ」が必要となる。

もちろん、エンプロイヤー・ブランディングは、経営上高いレベルで取り組むべきものであるが、役員(社長)だけで考えるものではない。また、縦割り組織の中で、どこかの部門だけに任せるものではない(例えば、経営企画室や人事部だけ、あるいは、外部の企業に丸投げ、など)。

なぜなら、自社が「働く価値のある場」であるかどうかは、現場で働いている従業員が最も知っているからである。そこには、プラスで前向きになれる意見もあれば、耳の痛い声が出て来るかもしれない。それらを真摯に受け止め、改善への取り組みも含めて、「一つの価値」としてブランドを創り上げる。エンプロイヤー・ブランディングは誰かが上から一方的に押し付けたり、あつらえたりするものではない。

したがって、EBチームには可能な範囲で社内の各部門から代表者が集まり、現場レベルまで影響を持つ体制を取る。そうでなければ、「雇用者としてのブランディング」などとは言えない。また、可能な限り外部の専門家をチームに参加させ、目指すべきゴールに向かって適切な助言や方向づけを得るべきである。さらに、スポットで取引先や顧客などから自社イメージについてヒアリングを行うこともある。

雇用ライフサイクル

エンプロイヤー・ブランディングは、「雇用ライフサイクル(Employment Lifecycle)」にもとづいて戦略を立てる。

「雇用ライフサイクル」とは、個人が企業に興味を持ち、働く場として検討し、選考を受けて入社し、入社後の教育を受けて戦力化し、業務に取り組み、キャリアを発達させ、やがては企業を去るところまでの一連の流れを示す。

多くの場合、雇用ライフサイクルはバラバラに考えられる。その結果、「言っていること」と「やっていること」がちぐはぐになり、働く従業員や新入社員が違和感を覚え、不協和のストレスにさらされ、最悪の場合はマイナスな理由の離職につながる。

「雇用ライフサイクル」の各局面において、何が起こっているか、その具体的な事実を正負両面から明らかにして、エンプロイヤー・ブランディング戦略を立てる。その意味で、「雇用ライフサイクル」は常に意識すべき概念である。

エンプロイヤー・ブランディングの重要性 なぜ必要なのか?

エンプロイヤー・ブランディングに取り組む意味は、次の3点が挙げられる。

  • 定着に貢献する
    従業員は、自社で働くことに誇りを持っているだろうか?
    「会社の一員である」という帰属意識をもって、働いているだろうか?
    せっかくコストをかけて採用し、教育した従業員が辞めてしまっては元も子もない。特に、「優秀な従業員から辞めていく」企業は、みすみす他社のために従業員を育てているようなものである。
    エンプロイヤー・ブランディングに真剣に取り組むことは、社内の現実を直視し、問題を洗い出し、改善や改革への意識を芽生えさせることになる。もちろん、従業員と話をする中で、胸を打つようなエピソードが出てくるかもしれない。そうした前向きな気持ちを共有し、「ここで働く意味」について改めて見直し、改善を手掛けて行くことは従業員の定着につながる。
  • 採用に貢献する
    自社で働く従業員は、大切な家族や友達、仲間に職場のことを嬉しそうに話しているだろうか?
    「やらされ感」や「強制」ではなく、SNSや転職口コミサイトに、自社の価値を伝える投稿をしているだろうか?
    求職者にとって、社内の実情がわからない内は間接的に情報を得る以外ない。企業サイトや採用サイトが全てではないことは周知の事実であり、「自分がここで働いたらどうなるのか?」「自分はこの会社に合いそうか?」という具体的なイメージや情報を求め、応募するか否かに影響を与えている。実際に働いている従業員から、現場の生々しい情報が得られれば、それは求職者の意思決定に大きく影響するだろう。
    エンプロイヤー・ブランディングに取り組めば、求職者が自社に応募するプロセスに前向きな影響を与える結果となる可能性が高い。少なくとも、自社について何を言われているかも知らずに、空虚な宣伝文句を並べ立てても、白々しさが残るだけである。
  • 誇りを持つ従業員が、優秀なメンバーを連れて来る
    一般に「Sクラスの人材はSまたはAクラスの人材を、Aクラスの人材はAまたはBクラスの人材を連れて来る」と言われる。自社の従業員は、社内外の人に前向きな職場イメージを伝えているだろうか? エンプロイヤー・ブランディングに成功すると、従業員は自然に自社の「広告塔」になり、会社のため、そして、新たな仲間のために採用と定着を促す。これには、採用コストが一切かからない。

 

エンプロイヤー・ブランディングの効用 財務会計上のインパクト

コスト・メリット
これまでに企業ブランディングや商品ブランディングに多くの投資を行い、一定のブランド・イメージが世間に浸透している場合、採用にかけるコストは相対的に少なくて済む。エンプロイヤー・ブランディングに取り組むと、同様の効果が得られる。つまり、採用をしていることを声高に伝えなくとも、「応募者が勝手に来てくれる」のである。ブランド・イメージが良く、「働く価値のある場」として認識されている場合、求職者はたとえ給与が以前より下がったとしても、それを受け入れる傾向にあるという。エンプロイヤー・ブランディングはこれを後押しする。エンプロイヤー・ブランディングに成功している企業は、失敗している企業に比べて採用コストが半分で済むという調査もある。

さらに、エンプロイヤー・ブランディングは採用のミスマッチを減らす。なぜなら、取り組みの中で自社の組織文化がより明確になり、組織文化により惹きつけられる人が集まり、より組織文化に合う人が採用される結果となり、そうでない人はそもそも応募して来ないからである。ミスマッチが減れば採用費、入社後の人件費や教育費に無駄がなくなり、財務メリットにつながる。

収益の向上
さらに、優秀な従業員が入り活躍して成果をあげることで、職場は活性化され、従業員のモチベーションが高くなり、生産性も上がる。また、「働きがいのある職場だ」と認識されると、従業員はより熱心に働こうとする。そのような従業員が多ければ多いほど、企業全体の生産性が上がり、収益の向上と企業の成長へとつながる。より高い収益は会社の財務状況を改善・安定させ、働く人や求職者にとってより安全で魅力的な職場へと変わる。

従業員への価値提案(EVP=Employee Value Proposition

自社の従業員(正社員・非正規社員)は、職場のどのような価値に感情的な結び付きを感じているだろうか?

勤続年数が長く、成果を出し続けている従業員は、働く場の価値のどこに重きを置いているだろうか?

ある商品やサービスを顧客に勧める場合、その商品・サービスが持つブランド・イメージや独自の価値によって、提案内容は自ずと定まる。同様に、従業員や求職者に対して自社を積極的に働く場として提案するとしたら、何を価値として挙げられるだろうか? 福利厚生やワークライフバランスの在り方、待遇などを提示することはEVPの一つと言えるが、より重要なことはそういった価値を生み出す組織文化や創業者の考え方など、働く場を創り上げているコアな価値観を明確に示すことが、より効果的なEVPではないかと思う。「何を?」ではなく、「なぜ?」の方がより人の心に訴えかけるのである。

エンプロイヤー・ブランディング戦略

エンプロイヤー・ブランディングは、EVP(従業員への価値提案)を土台として、4つの要素から成り立っている。

  • 自社の存在目的を伝える
    「人は、”企業がする事”にお金を払うわけではない。”企業がそれをしている理由”にお金を払うのである」という言葉がある。なぜ自社はこの事業を行っているのか? 何のために自社は存在しているのか? 社内ですぐに答えられる人がいないなら、経営理念を立派な額縁に飾ったり、朝礼で唱和することなどはさっさと止めてしまった方が良い。企業の存在目的は遠い昔に過去のものとなり、誰もが「何を」に意識を向けてしまっているからだ。自社が存在している理由と、自社が持つ信念は何だろうか? もう一度、形だけとなった(あるいは、忘れ去られた)経営理念や創業の精神について考え直す時かもしれない。冒頭の言葉は「従業員は、自社がしていることのために働くわけではない。自社の存在目的のために働くのである」と言い換えられる。
  • 組織文化の柱を立てる
    長く続いている企業ほど、創業時から脈々と受け継がれている組織文化がある。組織文化は、企業内のあらゆる人々が感じ取る共通の性格や特徴のことを言う。例えば、「うちの会社はお堅い」と多くの従業員が口にする場合、真面目さや堅実さ、慎重さなどが一つの組織文化として挙げられる。好き嫌いや良い悪いではなく、組織文化は客観的に存在するシステムやルールのようなものである。それに従って従業員は日々の仕事に取り組むことになり、結果として「合う・合わない」が生じる。自社の特徴的な組織文化は何だろうか? 可能な限り多くの従業員の声を聴くことで、組織文化はより明確になる。したがって、組織文化は十社十色であり、他社と全く同じということはありえない。同業他社との区別は、究極的には存在目的と組織文化によってなされる。
  • EVPの落とし込み
    「当社は挑戦するメンバーを求めています!」と自社の採用広告で訴えた場合、「挑戦的」「挑戦を奨励・許容する」が組織文化であり、「自社で働く人に挑戦する環境を与えている」「あなたが入社したら好きなように挑戦できる」という言外のメッセージがEVPであると言える。では、本当に自社の従業員は日々の仕事の中で挑戦しているのだろうか? 挑戦を促すような仕組みや環境は、実際にどのような制度として具体化されているのだろうか? EVPや組織文化は、日常・週・月・年の中で従業員の活動として具体化され、根拠があるものとして訴えなければ意味がない。もしここで、「言っていること」と「やっていること」が異なるようであれば、既存メンバーはしらけてしまい、その言葉を当てにした新入社員はギャップにがっかりしてしまう。
  • コミュニケーション(組織外への共有)
    自社の存在目的、組織文化、EVPの落とし込みが明確かつ具体的になれば、名実ともに「働く価値のある場」として誇りを持って働く従業員が増える可能性が高い。
    最後は、社外に向けて情報が発信されることでエンプロイヤー・ブランディングが完成する。自社の存在目的、組織文化とEVPが適切に伝われば、「真に求める人物像」に当てはまる人が自分からやって来る。自社が求める層に正しく「働く場の価値」を伝えることで、「正しい採用」が行われ、ミスマッチの可能性は下がり、定着が促される。
    したがって、コーポレートサイト、採用サイト、ソーシャルメディア(SNS等)、4マス広告(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)、OOH、採用配布資料などあらゆるメディアを通じてコミュニケーションを適切に行うことが、最後のカギとなる。いくら内部的なことを充実させたとしても、伝え方がまずければ、正しい候補者は惹きつけられないし、既存メンバーのモチベーションは下がってしまう。

エンプロイヤー・ブランディングの事例

企業によってブランディングの方法に特色があるものの、特に海外の企業サイトでは「企業の存在目的」や「使命」を冒頭に掲げ、職場のイメージ形成のためにシンプルな動画で自社を紹介している。

海外企業が日本と大きく異なるのは「多様性(ダイバーシティ)」を重視した紹介を行っており、人種構成や女性管理職の割合を大きく取り上げている。また、特別に何らかの制度や取り組みをアピールするというよりも、「私たちはこう考えている」「私たちのビジョンはこうです」という内容を淡々と訴え、「だからこのような取り組みを行っている」という論理立てが明確であるように思える。

例えば、フェイスブックでは「当社のミッション 2004年に設立されたFacebookは、誰もが安心して情報を共有できる、オープンでつながりのある世界を実現したいと考えています。 人々はFacebookを使って、友達や家族と常につながり、世界で何が起きているか発見したり、自分に関連することをシェアしたり表現したりすることができます。」を冒頭で大きく打ち出し、「組織文化」を職場の写真と共に伝えている(採用サイトではなく会社紹介のページであることがおもしろい)。

一方で、日本の大卒学生に人気のある企業では、海外サイトに比べて見やすさや明るさをデザイン面で重視し、なるべく多くの情報を提供しようとする姿勢が見られる。海外の企業では、新卒・中途に限らず採用サイトを一本化し、大卒学生向けに力を注いでいるようには見えないが、日本の企業では新卒専用サイトを特設して特色を出そうとしている。

【海外】

Google:https://diversity.google/

Facebook:https://ja.newsroom.fb.com/company-info/

サウスウエスト航空:https://www.southwest.com/html/about-southwest/careers/index.html

ナイキ:https://jobs.nike.com/inclusion

https://jobs.nike.com/about

【日本】

亀田製菓:http://www.kamedaseika-saiyo.jp/

明治HD:https://www.meiji.com/recruit/

ビースタイル:https://www.bstylegroup.co.jp/recruit/

また、第三者機関による調査を利用して、その結果を自社が魅力のある職場であることに用いている事例もある。

★GREAT PLACE TO WORK(R)JAPAN「働きがいのある会社」ランキング2018
https://hatarakigai.info/

第1位(従業員1,000人以上、100~999人、25~100人未満 各一社)

シスコシステムズ:https://www.cisco.com/c/ja_jp/about/careers.html

コンカー:https://www.concur.co.jp/jobs

アクロクエスト:http://recruit.acroquest.co.jp/company

※ 以上に掲げた日本国内企業が、各社の取り組みを「エンプロイヤー・ブランディング」の一環として取り組んでいることを保証するものではありません。

【ハイネケンの一事例】

オランダのビール会社「ハイネケン」は、2013年の採用活動の様子を動画にまとめている。後半の劇的な展開は、応募者にとって一生の出来事になるだろう(決して、真似をしてほしいと言っているわけではない)。

実際、ハイネケンは「採用は、単なる従業員の雇用ではない。才能ある人への、情熱あるプロポーズだ(Recruit it is just not hiring employees. It is propose to the talented person with enthusiasm)」と謳っている。

社内におけるエンプロイヤー・ブランディングの「10の実践」

2018年3月現在、エンプロイヤー・ブランディングについて明確に説明している日本語の記事はほとんどない。

したがって、ここでは試みにエンプロイヤー・ブランディングの取り組みについて海外企業の取り組みを参考にしながら説明を試みたい。

① エンプロイヤー・ブランディングについて理解する

まず、エンプロイヤー・ブランディングについての概略とそれを取り巻く様々な考え方について、理解しておく必要がある。前述の説明を参照してある程度理解が進んだら、次の3つのことを説明できるか確認しよう。

  1. エンプロイヤー・ブランディングとは?
  2. エンプロイヤー・ブランディングが会社にとって重要である理由は?
  3. エンプロイヤー・ブランディングの社内での位置づけはどうあるべきか?

② 次の5つの質問に答える

  1. もし、ある人が御社で働きたいと思っている場合、その理由は何ですか?
  2. 経営陣は、エンプロイヤー・ブランド(働く場の価値イメージ)について理解していて、ブランド構築の経験をしたことがありますか?
  3. 従業員や求職者は、自社のエンプロイヤー・ブランドについてどう認識していますか?
  4. 「タレント・プール」(自社で採用したいと思っている、採用候補者データベース)はどの程度充実していますか?
  5. 従業員のうち何%が、自社を「働く価値がある場」として推薦しますか?

以上の質問は、自社のエンプロイヤー・ブランディングについて現状把握して、今後戦略を立てるためのきっかけとなる。

③ EB(エンプロイヤー・ブランディング)チームを編成する

エンプロイヤー・ブランディングは、全社、特に現場を巻き込む必要があるため、ある部門だけに任せたり、経営陣だけで推し進めたりするべきものではない。したがって、理想は経営者(または、広報担当取締役)直下にEBチームを編成し、各部門や現場からメンバーを集め、進める方が良い。

エンプロイヤー・ブランディングに関する説明を社内で公開して共有し、メンバーを公募しても良いし、成長機会を与えたい社員を選んでも良い。具体的な進め方がわからない場合や、社内外にどのように伝えるかが得意でない場合は、社外の専門家をチームに招き入れることで、より効率的かつ効果的な取り組みを行える。

なお、副次的な効果ではあるが、EBチームの業務に取り組むことによって、チームメンバーの自社理解、リーダーシップや社内コミュニケーション力が向上する教育機会にもなる。

④ 雇用ライフサイクルの全体像を把握する
「求職者の誘引 → 選考 → 採用 → 新入社員教育・戦力化 → 定着 → キャリア発達 → 離職」
自社の雇用ライフサイクルでは、各ステップでどのような施策が成され、どのような数値(例:「何人の応募があって、何%の人が入社に至ったか」「何%の社員が3年以上働いているか」「社員のうち、何%が自社の成果に貢献しているか」)で構成されているだろうか?

エンプロイヤー・ブランディングは、ともすると「求職者の誘引のため」と思われがちだが、そうではなく、「個人が自社を通じて得る長期的な経験」と捉え、常に全体的な思考をもとに議論を進めていく。

⑤ エンプロイヤー・ブランディング戦略を立てる

「自社の存在目的」「組織文化の柱」「EVP(従業員への価値提案)」について、経営層から現場までを巻き込んで実態を把握するために、具体的な計画を立てて、さらにその結果を受けて社内外への「コミュニケーション」をどう展開するか検討する。

全社を巻き込んで従業員の声を聴いていくための手法は様々にあり、専門家のファシリテーションを利用したり、EBチームメンバーがそのような手法を学習して実践したりしても良い。「コミュニケーション」の部分では、「餅は餅屋」でそれを得意としている専門家がいるため、彼らのアドバイスや協力を得ることが必要になる(自社が既に得意であれば、問題はない)。

また、戦略上、必ず「目標」と「効果測定」は必須のテーマであり、無理のない範囲で設定が求められる。ただし、エンプロイヤー・ブランディングは特定の個人や部門の利益のために行うわけではないので、目標が独りよがりにならないように注意する必要がある。

⑥ 時代の変化を認識する

もし若手の採用・定着・活躍を促そうとしている場合、若者がどのような価値観を持ち、どういったコミュニケーションを望ましいと考えているか、自分たちの認識とのギャップを埋める必要がある。また、中途採用を進めたいと考えているならば、採用チャネルの種類や特徴、求職者が参考にしているサイトや情報等、自社を取り巻く時代環境をよく理解する必要がある。

⑦ リスクを受け止める
エンプロイヤー・ブランディングを進める上で、衝撃的な事実が発覚したり、耳を覆いたくなるような声があがったりするかもしれない。

また、社内のこうした取り組みを快く思わない従業員がいるだろう(「そんなことをするくらいならもっと給料を上げてほしい」「即効性のある改善をしてほしい」など)。自社の現実の姿を目の当たりにして、メンバーがショックを受けてモチベーションを下げたり、離脱したりする可能性があることを認識しておく。また、社内外へと情報発信をしたり、ブランディングを行ったりする中で、何らかのマイナスの反応が得られるかもしれない。

いずれにしても、エンプロイヤー・ブランディングは一時的な取り組みではなく、今後自社をもっとより良い企業へと変えていくための社内改革の一環と捉えれば、腰を据えてじっくりと周囲に理解を得ながら進めていくべきものだと考えられる。

⑧ 関係部門への配慮を忘れない
エンプロイヤー・ブランディングの取り組みによって、逆に「働く場の価値」が下がってしまっては元も子もない。

EBチームの取り組み内容について、特に利害関係を持つ人や関係部門がある場合は、今後の取り組みについて簡単にでも理解を得て進めた方が良いだろう(もちろん、その部門のメンバーがいれば積極的に情報を共有してもらう)。エンプロイヤー・ブランディングは、人事部や広報部(コーポレート・ブランディングや商品ブランディングを行っている部署)などと関係する可能性が高い。

⑨ 現代に則したデジタル化を心がける
インターネットやスマートフォンの普及とテクノロジーの進化は、人々のコミュニケーションの在り方を次々に変えている。それを踏まえた上で、自社のエンプロイヤー・ブランディングにおいて時代に合ったデジタル化をしなければならない。

例えば、EBチームの取り組みについて社内で情報共有する場合は、ポータルサイトを立ち上げたり、LINEを利用したりする(職場環境によっては紙で貼り出すことが速い場合もあるので、デジタルを押し付けるつもりはない)。

また、社外への情報公開のために採用(キャリア)サイトを立ち上げる場合は、必ず「モバイル対応にする」や「人気の採用サイトに情報を掲載する」、「制作した動画をyoutubeで公開する」など、デザイン面にも意識を向けてブランディングをして行きたい。

⑩ 他社の事例を積極的に学び、取り入れる

EVP(従業員への価値提案)の具体化では、福利厚生や働き方改革の取り組みにおいて他社事例が参考になる場合がある(他社は、エンプロイヤー・ブランディングの一環として行っていないかもしれないが)。

実際に他社の工夫について従業員から話を聴いたり、「GREAT PLACE TO WORK(R)JAPAN」主催の「働きがいのある会社」ランキングなどを参考にしたりして、自社の存在目的と組織文化に合った制度を選別して、取り入れよう。

エンプロイヤー・ブランディングの歴史

「エンプロイヤー・ブランド(Employer Brand)」とは、90年代に初めて登場した言葉で、1996年に論文で定義付けされた(Simon Barrow, Tim Ambler, 1996)。この時の定義は「雇用によりもたらされ、企業によって特色のある、職務的、経済的、心理的な恩恵のまとまり」とされ、「人的資源管理の分野に一般のブランドマネジメントの手法を応用する試み」として紹介されている。

2001年、北米の先進的企業を対象にした調査では40%の企業がエンプロイヤー・ブランディングについて何らかの取り組みを行っていると回答し、その後、経営者や人事部門、人事部門以外のビジネスマンにも認知され、2000年代後半に関連書籍が発行された。エンプロイヤー・ブランディングは、当初「余裕があれば取り組んだ方が良い」といった程度のもので特に話題にも上らなかったが、現在では「経営戦略に統合すべき必要不可欠のもの」として認識され、北米にとどまらずヨーロッパ、オーストラリア、アジアにその考え方は広まりつつある。

現在では、毎年「World Employer Branding Day」という国際フォーラムが開催され(2018年4月はプラハ)、40ヵ国以上から参加者が集まっている。

本説明文は(株)若水の作成によるものです。
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