【セミナーレポート】2017年9月「キャリア」

※下記の文章は、弊社主催「組織勉強会」の参加メンバーによる自主的なレポートです。文言等は修正せず、そのまま記載しております。

組織勉強会レポート

■日 時:平成29年9月27日(水)19時15分~21時15分@福岡市内会議室
■テーマ:「キャリア」
■参加者:異業種から7名

 

第1節:「現代におけるキャリア形成に関して」

本日のお題は「キャリア」である。

多くの方は仕事の経験や経歴といった「職歴」をご想像されるかと思う。

無論間違いではない。だが、今回の「キャリア」を考える上で、念頭に置くべきだと感じたことが多々ある。

「キャリア」とは「書き直しのきく紙に書くもの」ではなく、「石に刻むべき人生の刻印」なのだという認識。そして、「キャリア」がいかに自分の人生や、生活・仕事環境に影響をもたらすかという点。

以下、キャリアに関する考え方の、現代的な変化とそれに付随して出てきた気になるキーワードを簡略して記載する。

①キャリアの担い手の役割変更

20世紀のキャリア形成は簡単に言うと、「組織が責任を持って人を育てていた組織主体型のキャリア形成」が一般的であった。

しかし、社会や経済の不確実性が高まる中で、組織主体型のキャリア形成は限界を迎え、個人が自分自身のキャリア形成を一手に担わなければいけない時代、「自己管理型のキャリア形成」が求められる時代に変化を遂げた。

②理想:組織と個人による双方向のキャリア形成

「自己管理型のキャリア形成」が求められていると言ったが、組織にあって、個人の努力だけに頼ったキャリア形成するはいささか非効率的な話。組織主体型とは行かなくとも、キャリア形成を促進する支援的役割を担うことは出来る。

双方の具体的なアプローチを簡単に列挙する。

【組織】

・組織目標や未来戦略を明確に提示し、個人の将来像の計画を促す。

・新しい業務機会を提供し、成長機会をつくりだす。

・資格支援などの奨学金制度の設置。

・職場外研修への参加提供、キャリアセンター等の設置。

【個人】

・自己分析(内省分析、組織内外から自己評価のフィードバック等)

・人脈の形成。組織内外の両方で。

・需要の高い特定スキルの習得。(他の組織で即戦力とならない極端な使用環境を求められるものは除く)

・スペシャリスト、ゼネラリストとしての能力をバランスよく身につける。

・自分の仕事(功績)の棚卸を定期的に行う。

・選択肢の拡張。(最善を望み、最悪に備える)

個人がキャリア形成を行い、かつ、組織によるキャリア支援が行われれば最も望ましいが、個人はまだしも組織の支援は現状として難しいように思う。

なぜなら、会社規模や財政状況もさることながら、人材を「単なる労働力」としか捉えていない側面が現在も厳然として存在している点が大きいのではないかと考えられるからだ。

現実ベースで考えると、人的資源だ、人的資本だと、環境を向上させようとする働きかけや風潮は少なからずあるものの、数多ある営利組織ではその優先順位は高いとは言えないというのが実情かもしれない。

 

第2節:「キャリアと組織」

【個人キャリアと組織キャリア】

これは個人的な観点・解釈ではあるが、形成する「キャリア」には本質的に次の2種類のものが存在していると考えられる。

「個人キャリア」・・・個人的な知識や経験、技術の習得の積み重ねによるもの。他の社会や組織において通用する汎用性が高く、安定した影響力を持つ。

「組織キャリア」・・・所属組織のみに通用するように培われたもの。汎用性が非常に低く、偏った影響力を持つ。長期形成が前提。

日本は長期にわたり組織に所属するケースが今まで非常に多くみられていた歴史があり、「終身雇用」が美徳とされる時代があった。そのような状況下、「組織キャリアへの信頼」は諸外国より根強く存在していると考えられる。したがって、「組織キャリア形成」の重要度は極めて高くなるのが一般的だ。なぜなら、組織内で広く高い影響力を持つには必要不可欠な要素であるからである。

しかし、個人キャリアと組織キャリアを並行して築いている分には問題ないが、組織キャリアのみに傾倒していると、組織が傾いた際に非常に困った事態に陥ることになりがちである。ゆえに「自己管理型のキャリア形成」が非常に重要になると考えられる。

【産休・育休】

組織キャリアを築く上でとかく問題視されがちなワードである。

制度として公に認められているものの、基本的に『取りづらい』というのが現状の様子。産休に関してはまだしも、現代日本において「育休」のハードルは依然として高い。特に男性が「育休」を取得するという点は個人的に存在を疑うレベルである。

いずれにせよ、制度として認めていながらも組織キャリアとしての「育休」は、良くて「中断」、悪くすると「脱落」と判断されるだろうか?

議論が進む話でもあるが、現実としては決着がつきにくいキーワードでもある。

【リアリティショック】

「リアリティショック」は組織参入後に直面する、期待と現実の摩擦、衝撃・・・『こんなはずじゃなかった』と新入社員がよくぶち当たって、たまに『ペキッ』といっちゃって帰ってこなくなるやつである。

だが実はこれ、印象として若年層では帰還率がそれなりに高いが、年齢が高くなると非常に厳しくなるようだ。理由は、次の「イニシエーション」と関連する。

【イニシエーション】

「イニシエーション」は、社会でいう「通過儀礼」「加入儀礼」なのだが、組織においてもこれは頻繁に起きる。イニシエーションをどう乗り越えるかという点がとても重要だ。

・年齢が高いとタスクイニシエーション(加入儀礼)が困難

業務そのものになじむプロセスで、部署移動などが起きた際に新しい業務に適応するのが難しい、など。

前の職務に浸り過ぎるほど弊害が出る様子。望むらくは経験を適度に生かしつつ、新しい部署で他の人間に協力を求めると吉。下手すると無能のレベルまで逆に昇華して組織キャリアの危機に陥る。ベテラン社員が、ITスキルを求められるような仕事に就くと悲惨な状況が生まれやすい。せめて、人を使って業務を推進するならまだしも、個人に求められるときつい。

・年齢が若いとグループイニシエーション(通過儀礼)が困難

業務云々よりも、社会進出の初期、組織への忠誠心や協調性を最初にどのような形で示せるかという問題。若手社員がイニシエーションをどうくぐり抜けるかは、キャリア上大きなポイントとなる。

個人的観点から推察するに、理想と個人的能力の両方が高い人ほど、ここでこじらせやすい気がする。恭順の猫かぶりぐらいの腹芸が出来ないと組織生活は辛い。だから、理想に燃える新人など「鴨がネギしょって来た」くらいに見事にハマることが多い。

【ガラスの天井】

資質又は成果にかかわらず、属性が原因で組織内での昇進を妨げる、見えないが打ち破れない障壁 。

主に女性管理職の登用や学歴差による昇進差など、能力とは無関係な属性によってもたらされる差別的限界である。

組織といわず、社会的なキャリア形成にも非常に影響があることだと考えられる。

日本でもそうだが、世界的に見てもこの問題はいまだ根深い課題であることは間違いないであろう。

アメリカ大統領選挙、ヒラリー・クリントン候補の敗北後スピーチでも出てきた印象的なワードでもある。

彼女への個人的評価は差し控えるが、スピーチの内容は一見の価値があるものであったと思う。興味があれば是非ご一読願いたい。

日経ウーマン「ヒラリー・クリントン敗北宣言」

【ピーターの法則】

「人はそれぞれ無能のレベルに達するまで昇進する」という、特に上層部が嫌がる話。

耳が痛いし、詳細は長くなるので割愛するが、その対処方法としてメンタリングやコーチングが一策になると考えられる。

【エンパワーメントの促進】

ここでのエンパワーメントは「権限付与」を意味する。

某スーパーマーケットでは現場に権限を委譲することにより、より高いパフォーマンスを発揮させているという事例もある。これは「アカウントアビリティ(説明責任=自らの仕事に対し責任を負う)」の高さの証明であり、組織循環や学習する組織としても大変有用に考えられる。ある側面、キャリア形成を促す意味でも有用ではないだろうか。

【人材の「型」】

一般的に、ビジネスの世界で求められる人材を以下のように定義する考え方があるようだ。これは私が個人的に調べた内容である。

  1. T型人材・・・ひとつの専門分野に加えて、幅広い知識を持つ人材
  2. H型人材・・・強い専門性が1つあり、他の人の専門性と繋ぐ横棒を持ち、ほかの人とつながってHになるという“人と繋がりやすい”人材
  3. Π(パイ)型人材・・・幅広い知識を持ちつつ、2つの専門分野を兼ね備えた人材
  4. Δ(デルタ)型人材・・・3つの専門分野を兼ね備えた人材、幅広い知識は特に必要なし
  5. I型人材・・・ひとつの分野を掘り下げ、専門知識を持つ人材(スペシャリスト)

長年仕事に携わっていると⑤のI型になりやすい(〇〇一筋何十年など)、少し前までは①のT型人材がトレンドだったようだが、最近は特に②のH型が求められているという。

非常に興味深いのは、②のH型の重要性が他社との関係性を重視している人材であり、個人で完結していないという点だろう。②を除く①~⑤の人材は自己完結型である。だが、②のH型は他とつながれる=他者を常に意識しているのだ。つまり、つながる環境を形成、もしくは発見する能力があるということになる。

また、このH型人材、言うは易しだが、実際に実現しようとするとこれは中々骨が折れることである。

専門性を持った他者とつながるには、同等と言わないまでもそれなりに高い、相手と同じ専門性を持つ必要があるからである。そういった意味では、③④のΠ型Δ型人材は専門性さえ合致さえすれば、T型よりはハードルが低いといえるだろう。

総括すると、現社会で求められているのは最低でもH型、望みうるならΠ型もしくはΔ型でありながら、H型の特性を持った、複合型であるΠH型もしくはΔH型といったところであろうか。

 

第3節:「我が身を振り返り」

私の置かれている環境も、さほど現代のキャリア形成の在り方と変わりはない。典型的な「自己管理型」である。

一応、考課表の中には必須項目として「自己学習」が設けられており、達成しなければ査定に響くようなシステムが取られている。また、特定分野ならば通信教育を受講出来るようにも整えられている。

が、これがまた面白いほどに機能していない。

ここでその原因をいくつか挙げてみよう。

・自己学習の評価基準が曖昧であり、半ば形骸化している。

・考課表の裁定に対する影響が少ないため達成するメリット、未達成のデメリットが失われている。

・現場第一主義なので、現場が回ってさえすれば一切の追求がない。

原因の一端には、「自己キャリア形成」が重要とタテマエでは言いながらも、ホンネでは「組織キャリアが重要視される文化」が残っていることにあると推測される。

弊社の現場責任者の多くは個人キャリアではなく、長い間組織キャリア形成のみに傾倒して昇進をしてきた者たちばかりだ。そして、考課表の評価者はその現場責任者がその多くを担うことになる。

その結果、生まれたのは「自己管理型キャリア形成」など意に介さない、偏ったスキルのみを持つ特定環境下でのみ有能なスペシャリストたちである。

俯瞰してみるといびつなことこの上ない人材の集まりであるが、会社を回す上ではなんら支障がなかったためにこれまで問題とならなかった。

そう、会社が傾くまでは

弊社は傾いた。

言い逃れが出来ないレベルで傾いた。その結果、悲惨な現状が顕在化し、「身の振りようがない人間」が多数生まれたのである。

弊社が傾いた際に提示したプランは2つ。

・大手への吸収合併

・早期退職者制度の実施

要は身売りと人員整理である。

そこで社員が取りうる手段は「辞める」か「辞めない」かの2つであった。

本件の経緯は割愛するが、ここで問題となったのは「身の振りようがない」社員が多数いたことである。

組織キャリアのみに傾倒した結果、最善を望み、最悪に備える選択肢を作ってこなかった。なんら有用な選択肢を持たず、わずかばかりの退職金を貰って退職する者、会社に苦渋の決断で残留する者が多数発生することとなった。

この結果を読んでいただければ「キャリア形成の失敗」のリスクがどれだけ手痛いものか、お分かりいただけるだろう。

今更の話であるが、「組織は守ってくれない」という現実をまざまざと見せつけられた話でもあった。

 

第4節:「まとめ」

今回の勉強会の中で、ある方がおっしゃっていたことが強く頭の中に残っている。

「自分だけの武器を持ちなさい。組織にとってどうとでもなるような人材にだけはなってはいけない。そうでなければ不安定化した状況の中で、仕事を続けられなくなる」

蓋し金言である。

目まぐるしく社会が変化していくのは今に始まったことではないにしろ、多くの技術革新や、不安定化した政治情勢がいかなる化学反応を起こして、いついかなる時に自分の環境を一変させるかも分からない世の中である。

そういう観点から考えると「キャリア」というものは、社会に対して個人が持ち得る最大の武器かもしれない。

最後に、私の個人的見解ではあるが、「正しいキャリア」を築いた安定した人材は、組織、ひいては、社会においても「救いとなる存在」ではないかと思う。

安定した存在は、その存在をもって荒れた環境であっても安定化させる力=影響力があると考えるからである。

だからこそ私は影響力を持つに至る「キャリア」をなんとか残したいと考えている。

まずは最初に、中間目標としてはH型人材。そして、最終目標としては、最低でもΠ型、出来ればΔ型である。

これを10年で形にしたい。

不安定な時代に「輝ける人材」になりたい ―― 密かな願望ではあるが、そういった私の目標・熱意が、より良い未来を形づくる礎の一端になればと、切に願うばかりである。

(以上、N)