「社員は会社に入り、上司を去る」
という言葉がありますが、どれほどの核心を突いているでしょうか。
人はなぜ会社を辞めるのか、もちろんその理由はさまざまです。
辞める人が本当のことを言ってくれればいいですが、何となくにごされたり、真実を語らない場合もしばしばです(「あなた(社長or上司)のことが嫌いなんです」とは言えない)。
そうなると、辞める人の気持ちや離職理由を考える場合、まずは主観に頼ります。
しかし、そもそも会社を辞める気がない人、あるいは、絶対に辞められない人(オーナーや家族)では、客観的に起きている事実をとらえることは難しいのが事実です。
主観に頼った離職防止策は、空振りし(「それじゃないんだよ…」と従業員からは思われる)、やはり離職者は出てしまう。それが現実ではないでしょうか。
離職理由について、特に経営層や管理職層と、若者のジェネレーションギャップによるコミュニケーション不全が問題となるケースもあります。
そこで、現代の若者の全体的な傾向を知り、自社の状況に当てはめて考えてみることで有効な離職防止策が見えて来るのではないかと思い、このコラムを執筆しました。
今回は、15歳から34歳までの働いている若者たちを対象にした厚生労働省の調査をもとに考えます。
【参考データ】
厚生労働省 平成25年度 雇用の構造に関する実態調査(若年者雇用実態調査)
回答:全国の15,986人、15歳から34歳、正社員と正社員以外
詳細:http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/4-21.html
※グラフは弊社作成
そもそも、仕事に満足しているのか?
現在の職業生活に満足しているかを、項目別に尋ねた結果が図1、2のとおりです。
【図1:正社員の職業生活満足度 単位:%】
※「不明」は非常に少なく表示していないため、回答の合計が100%にならない。
【図2:正社員以外の職業生活満足度 単位:%】
特徴を箇条書きにします。
・正社員では、ほとんどの項目で「満足」と「やや満足」が50%前後
・正社員の「やや不満」と「不満」の合計は「賃金」が33.8%、「労働条件」が22.3%を除いて20%以下
・正社員以外の「やや不満」と「不満」の合計も「賃金」が35%と高いが、「労働条件」は14.7%とやや低くなり、その他の傾向は正社員と同じ
・正社員の「どちらでもない」が多く占める項目は「教育訓練・能力開発のあり方」が41.3%、「人事評価・処遇のあり方」が35.6%
・正社員以外は「どちらでもない」という回答の割合が全体的に多いが、「教育訓練・能力開発のあり方」、「福利厚生」、「人事評価・処遇のあり方」が特に多い。
満足のポイントは「賃金」、「教育」、「人事評価」
続いて、「満足」「やや満足」と答えた人の割合から、「やや不満」「不満」と答えた人の割合を引いた数字(満足度D.I.)を図3に示します。
これは、数字が大きくなればなるほど満足度の高い人が多く、不満足の人が少ないことを示します。逆に、数字が低いほど不満を表明している人が多い項目です。
【図3:満足度D.I(満足+やや満足)-(不満+やや不満) 単位:%】
「賃金」の項目があからさまに低く、正社員以外にいたっては唯一マイナスに振れています。
「仕事の内容・やりがい」の項目では高い数字になっていますので、「これで給料さえもう少し高ければいいのに…」と思う人が多いからでしょうか。
「教育」「人事評価」に関しては、「どちらでもない」と答えている人の割合が多いため、このような結果に至っていると考えられます。
「人事評価」についていえば、結果的に「賃金」と結びつく可能性があるため、評価が反映されなければ、当然のように満足度は上がらないと考えられます。
しかし、だからと言って賃金をむやみやたらに上げることができない現状を考えると、売上の状況やコスト構造をしっかりと説明したうえで、賃金以外の部分で満足度を上げることが重要なポイントとなるのではないでしょうか。
教育訓練や人事評価制度にかけるコストは、賃金に比べればハードルが低いものと考えられます。
さらに、
教育やトレーニングを実施する
→従業員のスキル・態度が向上する
→顧客満足につながる→売上が上昇する
→給料に反映できる(人事評価の見直し) or さらに教育に投資する
といった好サイクルを望む、という選択肢も可能と考えられます。
もちろん、「そんな簡単にうまく行かないよ」という声も聞こえてきそうですが…。
実際、正社員では「労働時間・労働条件」で不満が多く見られるということは、日々の仕事に追われたり、休日まで出勤している様子がうかがえます。残業代が支払われていなかったり、サービス残業があって、それにも不満を抱えているのが現実であれば、そこに教育や研修をやろうものなら、さらに不満を招いてしまいます。
起きている現象をシステム的にとらえることで、これらの要因が複雑にからみ合っていて、単独の項目だけを改善すればよいという話ではないことがわかります。
「組織をどのようにしたいか」というビジョンと「なぜそのようにしたいのか」という思いを明らかにして、施策として具体化していくことが求められます。
過去に会社を辞めた(退職)理由
この調査では、過去に転職を経験した人に「最初に勤めた会社を辞めた理由」を尋ねています。それを示したのが次の図4です。
【図4:初めて勤務した会社をやめた主な理由(複数回答3つまで) 単位:%】
特に多い回答が「仕事が自分に合わない」「賃金条件」「労働時間」「人間関係」として挙がっています。
最初に見た通り、多くの人が「賃金」や「労働条件」に不満を抱えていることが、そのまま離職理由につながっていることがうかがえます。
さらに、「仕事が合わない」、「人間関係」といったソフトな面での理由が上位に挙がっていることは、従業員が内面の環境を重視して働いていることがわかります。
調査では、転職後に改善されたかまではわかりませんが、満足度で「人間関係」や「仕事内容・やりがい」の項目が高いということは、解決できたのかもしれません。しかしやはり、賃金だけは大きな改善には至らないのが現実でしょうか。
今の会社を辞めたい理由
「今の会社を定年までに転職したいか?」という質問もされています。
「したい」と答えた人は25.7%でした。
会社の規模で分けると次のような結果です。
1,000人以上:24.4%
300~999人:22.3%
100~299人:23.8%
30 ~ 99人:27.1%
5 ~ 29人:27.2%
大きければ転職希望者も少ないかと言えば、そういうわけではなく、100人から1,000人未満の中規模企業では比較的に少なく、小規模の企業では少し多めになっています。
また、業界によっても数字は変わります。
たとえば、電気・ガス・熱供給・水道業では10.9%、鉱業系12.9%、運輸業・郵便業17.2%、製造業の中でも素材関連では18.6%と、20%を切る業界があります。
一方で、医療・福祉業は35.0%、宿泊・飲食業は34.0%、小売業は32.7%、複合サービス事業は32.3%、情報通信(IT)業27.7%と平均を大きく上回る業界があるのも事実です。
医療・福祉と宿泊・飲食については、産業全体を見た場合に労働者数が圧倒的に多く、全国でも1位と2位を占めます。従事している人が多い分、転職希望者が多くなっているのが理由と考えられます。
そして、転職したい理由が何かを示しているのが次の図5です。
【図5:転職しようと思う理由(複数回答) 単位:%】
やはり「賃金」「労働条件」を気にしていることは、若者全体に通じて言えることのようです。
「自分に合った仕事をしたい」、「自分を活かせる仕事をしたい」という理由が次に来ているのは、「最初に勤めた会社を辞めた理由」と一致するように、内面的な充実を望んでいることがわかります。
では、どうするのか?
全体をまとめると
・働いている若者の3人~から5人のうち1人は、転職したいと思っている
・満足度と転職理由では「賃金」をトップに、「労働時間」などが問題として挙がっている
・「人間関係」や「自分に合った仕事」など、内面的な問題も見逃せない
・「教育訓練」や「人事評価」は、間接的な影響があると考えられる
・従業員を取り巻くものが複雑にからみ合って現状を形成しているため、あるものだけを取り出して論じても仕方がない
などが言えると思います。
もちろん、会社によって個別具体的な事情や状況があって、簡単な話ではないのはよくわかります。
それぞれの会社の現実を見きわめたうえで、「では、どうするのか?」を考えていくのがトップや経営陣、管理職の仕事です。
まずは、今回ご紹介したような項目で社内の現状をデータ化してみることが、現状を認識する第一歩です。
そこから、自社に特有の問題と答えが、浮かび上がってくるのではないでしょうか。
離職防止の具体策と効果的な対策
参考までに、10,283の事業所を対象にした厚生労働省の調査データを示します。
まず、若手正社員の定着策を実施しているかいないかについて、70.5%が「実施している」と回答しています。
「定着のためにどのような施策を行っているか」、そして、「(その中で)最も効果のある対策はどれか」を示したものは、図6のとおりです。
【図6:若年正社員の定着のための対策(複数回答)と最も効果のある対策 単位:%】
半数を超えるところで、「意思疎通(コミュニケーション)の向上」や「本人に合った配置」、「教育訓練」、「採用前の情報提供」が行われていることがわかります。
一方で退職理由や不満の多かった、「賃金」や「労働時間」に対する対策はやや減少することがわかります。
最も効果のある対策としては、上記の順番どおりで来ているものの、「採用前の情報提供」でやや数字が落ちます。これは、定着につながっているとなかなか感じられにくいのかもしれません。「仕事に見合った賃金」の効果が高いと10%程度が考えているのも印象的です。
一方で、「労働時間」についての対策はあまり効果を感じていないようです。
そもそも、どのように会社側(事業者側)は「社員が定着出来ている」と考えるのでしょうか?
他のデータでは、「直近1年間で若年者の離職があったかどうか」を尋ねる質問で、「あった」という回答が8割を超えています。
退職者がいるのはやむを得ないと考えつつも、会社に貢献してくれている社員を定着できていると考えるのは、普段のコミュニケーションによって社員の様子や状況を把握し、さりげないケアやフォローを行えているからかもしれません。
逆に言えば、コミュニケーションを取っていることで「効果のある」「ない」を判断できているとも考えられます。
そうなると、社員の定着の第一歩は、相互理解をつとめるために普段からコミュニケーションの機会をつくることが、自社にとって効果的な対策につながるのではないでしょうか。
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